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藤原 敬之
2017/03/11

「なぜ東芝は……」異質なものに対応できない日本企業の病理とは?

何が欠如しているのか?

 日本企業とはどのような特質を持つか?

 私が日本株ファンドマネージャーを生業にしていた四半世紀、常に座右に置いた設問だ。日本企業の普遍的性質を知ること。それは個別企業に投資をする際のメルクマールとなっていた。「この企業は典型的日本企業」「ここは非日本的企業」という切り口にしていたのだ。

 それは産業論や組織論、経営論へも展開される。私の場合は株式運用に応用していたということだ。

 アカデミズムの世界で日本企業の特質を鮮やかに汲み出してみせたのは、先年物故した青木昌彦になる。ノーベル経済学賞を日本人が受賞するとすれば青木をおいてないとされた国際レベルの経済学者だ。『日本経済の制度分析』『システムとしての日本企業』『コーポレーションの進化多様性』等々……青木の優れた著作から私は多くを教わった。

 そこから私なりに得た日本企業の特質の一つが「日本企業は連続的需要変化への対応力に長けている」ということだ。

©iStock.com

日本人は「微分」が得意

 自動車やゲーム産業において日本企業がなぜ比較優位性を発揮できるのかを考えてみると分かる。消費者の嗜好、ニーズに応じて既存製品のモデルチェンジを繰り返すことで競争力を維持強化出来る。

 需要は日々変化するが連続的なものだ。需要を概念的に曲線で描き出し、それを微分することで傾向を割り出し新製品開発や改良・改善に繋げる。

“日本人は微分が得意なのだ”と私は把握した。

 また、日本人は英語を学ぶ時、関係代名詞を簡単に理解し把握する。これも日本人の思考を考える時に重要な要素になる。すぐそこにある名詞との関係性を掴むことと連続する需要変化の把握は同じような思考型なのだ。

 話を日本企業に戻して、連続的需要変化が存在する世界、同質的世界では“空気を読む”ことや“すり合わせ”が重要になることが分かる。戦後、日本が輸出製造業を中心に高度経済成長を成し遂げ、80年代以降に登場して来た家庭用ゲーム機が一大産業として世界を席巻したのは、日本企業の特質の“長所”が比較優位として働いたからに他ならない。

 バブル崩壊後、長期にわたる経済低迷が続く中でも日本企業はその特質を示した。多くの企業で見られたB2CからB2Bへの転換がそれだ。消費低迷で需要予測が困難化した個人向け事業を縮小、すり合わせの出来るインフラ事業へのシフトで利益最適化を図ったのだ。利益面で改善は成したが縮小均衡から合成の誤謬を起こしマクロ経済の改善を阻んでいるのが実態だ。

異質なものをマネージできないから海外企業買収で失敗する

 そして大きな問題が日本企業のネガティブな特質から噴出して来る。ネガティブな特質とは「非連続的な異次元の製品やサービスの創造、異質のものをマネージすることは不得手」ということだ。

 異次元創造の例は、アップルやアマゾン、フェイスブックなどが挙げられる。この世に存在しないものを創り出す能力は日本企業は圧倒的に劣る。そのため次々登場する創造的競争者に収益性の高い既存市場を奪われ、周辺市場で細々と利益を追うだけの存在となる。外に打って出ることをせず、内へ内へと籠る日本企業。それを示す良い言葉が“ガラパゴス”だ。

 異質なもの、他者をマネージする能力の劣等性では日本企業は悲惨な結果を迎え続けて来た。海外企業の大型買収の失敗。最近の東芝が典型例だが、バブル期から始まる日本企業の海外企業買収は殆ど全てが失敗といって過言ではない。

©getty

外国人部下とうまくやる方法

 私は嘗て外資系金融機関で働いたが何が難しいといって外国人部下を使うことほど難しいことはない。しかし、ある時あることに気がついてから非常にスムーズにマネージ出来るようになった。

 組織としての目標の明確化、組織での個々人の役割の明確化、インセンティブの明確化を図り、問題発生時には“組織・個人・報酬の三段論法”で対処への理由を説くようにした。彼らに必要なのは常にビジョンとインセンティブだからだ。

「今これが問題なのだから解決しなければならない」は連続的需要変化への対応、つまり今そこにあるもの、目先への対応で日本人はすんなりと受け入れるが外国人は違う。それでは動かないのだ。

 私は「この問題は組織の目標(ビジョン)達成のこの部分の障害に当たる。君の組織での役割はこうだ。だから解決してくれた場合の君への報酬(インセンティブ)はこうなる」という“三段論法”を使った。組織の目標というビジョンと個々人のインセンティブがリンクすることで彼らは納得し動いてくれたのだ。

 日本企業の海外企業マネージ失敗の本質は“ビジョンとインセンティブの欠如”だと私は思っている。

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