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フランスで築く父子2人の“小さな社会”

『息子に贈ることば』 (辻仁成 著)

2016/03/06

genre : エンタメ, 読書

note

 曾祖母、祖母、両親、私たち兄弟3人の計7人の大家族は、戦前から建つ家で四世代一緒に生活をしていました。

 私にとってはそれが“家族”の当たり前の姿でした。

 明治生まれの曾祖母、大正生まれの祖母、昭和戦前生まれの両親、昭和戦後生まれの私たち。

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 心臓を悪くし、外出ができなくなった曾祖母は常に居間の定位置に座っているか、ベッドに横になっているか。一人きりにするのは心配だから、必ず誰かが曾祖母のそばにいるようにしていました。子供の時から誰かが必ず「大きいおばあちゃま」(曾祖母)とお留守番をするのが私たち3人兄弟の当たり前の毎日でした。

「大きいおばあちゃま」が家の中を歩きたいときには、そっと手を持って一緒に歩いたり、ときにはそ~~っと後ろからついていって、危ないことがないかどうか見張っていたりしたものです。

 これが私が知った最初の”小さな社会”

 家族といえども”社会”の中にはルールがあり、それぞれの役割があります。

 その役割はその時々で変わるけれども、なんとも上手く回っていくものなのです。

 テレビは居間に1台だけ。でも優先権は一番年上である曾祖母。

 夜はみんなで居間に集まり、テレビを観たり、話をしたり。

 何でもない話の中から、私たちは様々なことを学びました。

 

“一番小さな社会である家族”が大好きでした。こんなに温かく、安心していられて居心地のいい場所はほかにはないと思って……そのまま大人になりました。

 決して人のことを悪く言わない我が家の大人たち。いつのころからか私は“人を嫌う”という感情を持つことが難しくなりました。

 私がこんなに愛する家族。この家族の誰かのことを恨んだり、悪くいう人がいたとしたら、それは私にとっては私自身が恨まれたり悪く言われる以上に辛く、悲しいこと。

 だから……もし私が他の誰かを恨んだり、嫌ったりしたら……それを知ったその人の家族はとてもとても悲しいのではないのだろうか?

 そう考えただけで、相手に対してのネガティブな感情が消えてしまうようになったのです。

 怒りの感情が出たとしても……一瞬にしてなくなる。こんな風に思えるようになったのは、この“小さな社会”のお蔭。

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