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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/03/14

タイの「世界一珍妙な名前」のタマゴ料理とは?

イラスト 小幡彩貴

 タイには「カイ・ルーク・クイ」という、世界的にもひじょうに珍妙な卵料理がある。

 珍妙の理由は二つあるが、まずはその調理法。これは「ゆでタマゴを揚げた料理」なのだ。タマゴをゆでた後に揚げるなんて普通は誰もしない。まずそこからしてヘンなわけだが、これは屋台料理でもなければ家庭料理でもない。かといって普通のレストランや食堂のメニューにもない。宴会料理の一つだという。

 一度、知り合いのタイ人シェフに作り方を見せてもらって納得した。けっこう手がかかっているのだ。

 この料理の陰の主役はソース。強い酸味をもつタマリンドの熟した果実をお湯で溶かし、それにふんわり甘いココナツシュガーを混ぜる。さらに市販のフライドレッドオニオン、ナンプラーを加え、スプーンでずっとかき混ぜながら五分ぐらいかけて煮詰める。

 次は主役のタマゴ。こちらはシンプル。鍋にたっぷりの油を強火にかけ、そこに殻をむいたゆでタマゴをいれるだけ。タマゴの表面がジワジワと熱されていく。ツルンとしたきれいな肌が、無残にも火傷していくようで、なんだかとても痛々しく、思わず「わー、もうやめて!」と叫びたくなってしまう。

 タマゴはやがて程よいキツネ色になり、表面はシワシワになる。ここまで来ると、もう笑うばかり。

 なぜか? カイ・ルーク・クイとは、「お婿さん(娘婿)のタマゴ」という意味なのだ。タマゴの本意は揚がったこのブツを見れば一目瞭然であろう。

美しい盛りつけをしたタマタマ

 それにしても、料理に下ネタを用いるとは。しかも「おじいさん」でも「お父さん」でも「少年」でもなく、「お婿さん」とは妙に生々しい。世界でも最も珍妙な名前の料理ではあるまいか。

 たしかに、酸味をともなったこってりと甘いソースをかけた、このフレッシュなタマタマは、まさにお婿さんという力強さと初々しさと品の良さに満ちているのであった。