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赤坂太郎
2017/03/10

安倍一強の最大の敵は、民進党ではなく小池百合子

小池ファクターが安倍の解散戦略に影響を与える

  それは、普段は姿を現さない自民党内の「安倍派」が一堂に会した瞬間だった。2月15日夜、東京・赤坂の中国料理店「赤坂飯店」で派閥横断の勉強会「きさらぎ会」の新年会が行われた。白い丸テーブルに着席し、歴代首相も好んだフカヒレ入りのスープを前に、首相の安倍晋三は終始、上機嫌だった。日米首脳会談から2日前に帰国したばかりの安倍は挨拶に立つと「日米同盟の新しい時代をつくってきた」と切り出し、トランプ米大統領とのゴルフの秘話を披露。60年前に、当時のアイゼンハワー大統領と祖父の岸信介もゴルフ外交を展開したことも引き合いに出した。祖父は、思うようにいかないショットに「くやしい」と顔をしかめたアイゼンハワーを間近に見て、「人間模様を垣間見られた」と語っていたと述懐した。僅か30分ほどで退席したが、「3期9年」への総裁任期延長正式決定を控え、その顔には強い自信がみなぎっていた。

 きさらぎ会は会長だった元法相・鳩山邦夫の豊富な資金力と人脈で勢力を拡大してきた。鳩山が昨年6月に死去した後、官房長官の菅義偉が顧問に就任、活動を引き継いだ。当然安倍を支えることを基本方針に掲げる。メンバーは約120人とも言われ、最大派閥の「清和研(細田派)」(97人)をも上回る。今や自民党議員の約4分の1は無派閥の中で、菅が差配するきさらぎ会の動きは来年秋の自民党総裁選や「ポスト安倍」の行方を左右する。

明治改元150年への野心

 安倍が総裁3選を果たせば次の任期が始まるのは来年10月。実はその頃、安倍のもう1つのこだわりの節目が訪れる。「明治改元150年」を盛大に祝うという秘めた野心があるのだ。

 1868年10月23日、元号を改める「改元の詔書」が出された。それからちょうど150年となる来秋に向け、安倍政権はすでに様々なイベントの準備を進めている。昨年11月4日、首相官邸で開かれた「明治150年」関連施策各府省庁連絡会議の初会合には山内昌之・東大名誉教授が出席し、明治期に活躍した女性や若者に焦点を当てた事業の開催を提案した。他にも明治期に活躍した外国人の伝記の出版や、明治にゆかりのある建物の公開などが検討されている。

 自民党内には安倍の思いを実現すべく、現行憲法が公布された11月3日の「文化の日」を「明治の日」にしようという動きもある。この日は明治天皇の誕生日でもあり、戦前は「明治節」という祝日だった。昨年11月1日には、「明治の日推進協議会」(会長・塚本三郎元民社党委員長)の集会が国会内で開かれ、稲田朋美、古屋圭司ら保守系の国会議員十数人を含む約150人が出席した。古屋は「明治の時代こそ大切だったと全ての日本人が振り返る日にしたい」と語っている。同協議会には、伊藤哲夫・日本政策研究センター代表、大原康男・国学院大名誉教授、ジャーナリストの櫻井よしこら安倍シンパが役員に名を連ねる。

 安倍には「明治」への特別な思いがある。「千万人といえどもわれいかん」。幕末、長州・萩の松下村塾で教えた吉田松陰が好んだ孟子の言葉を祖父の岸はしばしば口にした。祖父の思いを受け継ぐ安倍も、この言葉を好んで使う。

 昨年9月12日夜。港区の明治記念館。安倍、昭恵夫人、キャロライン・ケネディ駐日米国大使らが集まった。下関市で田植えから育てた酒米・山田錦を使い、福島県会津若松市の末廣酒造が造った「純米大吟醸」の「やまとのこころ」の完成お披露目会が催されたのだ。安倍は「戊辰戦争の和解から世界平和をという思いが込められている。酒造りを通じてさらに和解が進み、明治維新150年にはさらに皆さんとともに盛大にお祝いをしたい」と語った。安倍には富国強兵を掲げ、西欧化を進めた明治期こそ、「本来あるべき日本の姿」との思いがある。

 安倍は2年前の戦後70年談話で「日露戦争は多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた」と述べ、近代国家への夜明けを導いた明治維新を誇った。偶然にも、明治改元50年は寺内正毅、90年は岸信介、100年は大叔父・佐藤栄作が首相だった。いずれも安倍と同じ長州、山口の出身である。

 付言すれば、来年10月に訪れるであろう「明治ブーム」は、皮肉にも同年末に想定される今上天皇の譲位と相前後する。明治改元150年と平成の終わり――その運命的な重なりを意識しながら、安倍は来秋、総裁3期目の門出を迎えることを企図している。

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 一方、「ポスト安倍」をめぐる動きも自民党内で活発化している。震源地は副総理兼財務相の麻生太郎が率いる「為公会(麻生派)」。外相の岸田文雄が率いる「宏池会(岸田派)」との合流を働きかけ、勢力拡大を本格化させている。2月13日夜には麻生派事務総長の森英介、有隣会(谷垣グループ)代表世話人の逢沢一郎らが都内で会談した。ともに宏池会の流れをくむ麻生派と谷垣グループは「大宏池会」構想を目指すことを確認。細田派との2大派閥による競争が党内の活性化につながるとの認識を共有した。宏池会は今年、派閥設立60周年を迎える。5月28日には広島市内にある元首相・池田勇人の銅像前で記念式典を開催する予定だ。

 もともと宏池会は麻生の祖父・吉田茂の寵愛を受けた池田が結成した派閥だ。麻生自身も以前は在籍しており、過去に何度か浮上した「大宏池会」構想の実現に強い意欲をみせている。2月9日には前経済再生相の甘利明ら5人が入会し、麻生派は総勢45人になった。岸田派(46人)や谷垣グループとの合流が実現すれば、最大派閥の細田派をしのぐ勢力となる。

 病床の谷垣に、麻生は第三者を介して「同じ流れをくむ我々が合流するのは悪くない話じゃないか」と持ちかけ、谷垣は「連携を深めることはいいことだ」と受け入れた。こうしたやりとりを通じて2人は間合いを詰めつつある。谷垣と麻生の和解は、2000年の「加藤の乱」で袂を分かった岸田派にとっても秋波となる。もっとも麻生の視線の先にあるのは、来年ではなく2021年9月の総裁選だ。麻生派には「総裁候補不在」というジレンマもあり、「ポスト安倍」が自民党内で不透明になりつつあるなか、一定の「数」を維持して求心力を維持しておきたいとの思惑がある。麻生は大宏池会が実現した暁には谷垣を「名誉会長」に就け、岸田を総裁候補とする代わりに、自らが会長に就くというシナリオを描いている。

 他派閥でも胎動がある。2月23日夜には元参院副議長で山東派(11人)を率いる山東昭子が逢沢らと会食し、白いバラの花束を贈られた。花言葉は「相思相愛」だ。他方、自民党の広報本部長を務める平沢勝栄は、所属する石原派(会長・石原伸晃経済再生相)を退会する意向を伝えた。事務総長の平沢が抜ければ、15人と小所帯の石原派は分裂しかねない。背景には東京都連の運営をめぐる路線対立がある。東京選出の平沢は次の衆院選も見据えて都知事の小池百合子とは是々非々で連携すべきとの立場だ。だが石原には、父である元都知事、石原慎太郎と激しく敵対する小池との連携などありえない。必然の決裂だった。

 派閥再編をめぐる複雑な動きには、安倍政権内のきしみも見え隠れする。麻生の動きを安倍は黙認しているものの、今後の行動次第では菅と麻生の対立が決定的となる危険を孕む。岸田は「来年の総裁選には出る」と周囲に語っており、その時「大宏池会」が実現していれば、麻生は推薦人に名を連ねざるを得ない。そのため麻生派の中には「今は合流を急ぐ必要はない」(中堅)との声もある。消費増税先送りの是非や解散の時期など、政局の節目、節目で対立してきた2人は元々微妙な関係だ。ポスト安倍で足並みがそろわなければ、100人規模のきさらぎ会と大宏池会で党内が真っ二つに割れることもあり得る。