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水谷 竹秀
2017/04/02

カジノ業界に参入する日本の“ライバル”は意外な国だった

マニラに和製カジノが出来ていた #2

日本の“ライバル”になるフィリピン

 現場責任者らしきスーツ姿のスタッフが誇らしげに説明してくれた。

「フィリピンはアジアの中で最も経済成長している国で、高齢化が進む日本や韓国とは異なり、人口も若年層が中心。岡田会長はカンボジアやベトナムなどの国々も視察しましたが、最終的にフィリピンを候補地に決めました。外国人客のターゲットは日本、中国、韓国の3カ国です」

 フィリピンの経済成長率は近年6~7%を維持し、人口も1億人を突破。平均年齢は23歳と日本(平均年齢46歳)を大きく下回る。この活気溢れる南国でIRを開業するに当たり、岡田会長は昨年7月、就任したばかりのドゥテルテ大統領を表敬訪問している。

 日本が参入を目指しているカジノ業界は、世界各国が激しい競争を繰り広げている。

グランドオープンに向けて工事が進められるオカダマニラ ©水谷竹秀

 世界のカジノ業界に関する調査報告書によると、アジア市場はここ5年間で急成長。世界のカジノ市場でアジア諸国が占める割合は、2010年時点で28%にとどまっていたが、15年には米国(40%)を抜いて43%まで増えた。

 その中でもフィリピンのカジノの市場規模は、2010年には5.6億ドルだったのが15年には12億ドルを超え、アジアでマカオ(約621億ドル)、シンガポール(約71億ドル)、韓国(約26億ドル)に次ぐ4番目の規模に成長した。これから参入しようとしている日本の“ライバル”ともいえる存在である。

中国人富裕層の取り込みがカギ

 フィリピンの急成長の背景には近年、大型IRが立て続けに開業したことが大きい。その躍進を支えているのが、中国人の存在だ。

 岡田会長は仮オープン後のメディアの取材に対し、フィリピンのカジノ市場は将来的にシンガポールを抜く可能性があると予測し、次のように語った。

「多くの中国人がフィリピンに入国している。比中関係が改善され、それが観光産業の促進につながっていくだろう」

 ドゥテルテ大統領が昨年10月半ばに訪中したことで、中国との関係強化が急速に進み、フィリピンを訪れる中国人はさらに増えている。これまで比国内の外国人観光客は多い順に韓国、米国、日本の3カ国が不動だったが、昨年の統計では中国が日本を抜いて3位にランクインすることがほぼ確実だ。

 カジノ運営においては、収益全体の6~7割を占めると言われるVIP(大口客)をいかに呼べるかがカギを握る。その中で存在感を示すのは、やはり中国人富裕層。日本版カジノも、彼らを取り込まないことには、国際競争を勝ち抜けないのだ。

来場者たちはエントランスでドレス姿の女性たちと記念撮影 ©水谷竹秀

中国にいながらフィリピンでカジノ

 オカダマニラの近くに建つIR「シティー・オブ・ドリームズ」2階の一室を訪ねたときのこと。バカラテーブルの周りに黒いスーツ姿の男女たちが陣取る。ディーラーから配られたカードが裏返される度、ヘッドセットのマイクに向かって中国語で何やら伝えている。男女たちが手にしているチップの額は一つ10万ペソ(約23万円)。それがテーブルの上に大量に積み上げられているのだ。そこは選ばれた人間にしか踏み込むことができない異様な雰囲気を放っていた。

 あるスタッフが説明してくれた。

「黒いスーツ姿の男女たちは“ジャンケット”と呼びます。中国をはじめ海外に滞在するVIPの指示に従って、代わりにゲームをしているのです。天井に取り付けられた監視カメラのライブ映像がVIPに届けられる仕組みになっています」

 このほかジャンケットはVIPの宿泊先の手配や資金の融通なども行う。顧客は中国にいながら、フィリピンのカジノで遊ぶ。小説さながらの光景だった。

夜の遊び場も充実

 では、日本人客はどうか。フィリピンでカジノコーディネーターを務める石橋正義さん(45)によると、IRを訪れるVIPは中国、韓国、シンガポール、マレーシア人などに集中し、日本人は月平均5~10人にとどまるという。

「日本人のVIPは会社の社長あるいは自営業の方々で、一般のサラリーマンはほとんどいません。年齢は30代から50代。現金を2、300万円持ち込んで遊び、2、3泊して帰っていきますね」

 どの国の客も、カジノで勝とうが負けようが、家族連れでなければ、夜のお店へ流れる。

アクロバットなどのイベントも行われ、来場者を楽しませるエンターテイメント性を追求している ©水谷竹秀

 たとえばIR「ソレア」には1部屋のチャージ料金が3万5000ペソ(約8万円)からの超高級クラブがある。中をのぞいてみると、暗がりのカウンター席には、中国人とみられる背の高いホステスたちが何人も待機していた。近隣のIR「リゾート・ワールド」には昨年5月、日本のアダルトビデオ界で一世を風靡した小澤マリア(31)が経営する高級クラブがオープンするなど、夜の遊び場も充実している。

 広大な埋立地に建てられたマニラのIRは、周囲に繁華街があるわけではない。娯楽施設も含めて内部で完結している。この一帯を管轄する警察署の署長は「カジノ内で財布や携帯電話をすられたという小さな窃盗事件が月に1回あるかないか。ここは赤線地帯がないので、治安はいい方だ」と語る。

(#3「GACKTに直撃『日本にカジノは必要ですか』」に続く)

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