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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/03/21

インドのカレーは本当においしいのか

謎の怪魚とカレー

イラスト 小幡彩貴

 私にとってインドカレーとは「悲劇の料理」である。

 まず出会いからして悲惨。私は人生初の海外旅行がインドだったのだが、現地の食堂のカレーがあまりに辛くてほとんど食べられなかった。今の若い人には信じられないかもしれないが、八〇年代半ば、私の身の回りには唐辛子の入った料理や食品は皆無。それがインドに行くと、どんなにライトなカレーでも、日本のカレーライスの辛口よりはるかに辛い。だいたい二口か三口で口の中が火の海になり、置いてある水をがぶ飲みするが、舌が痺れて半分も食べられない。しかも不慣れな唐辛子のせいか、食堂の水のせいか、毎日激しい下痢。

 私は食事をとらなくなった。サモサなどスナックの類い(これらは辛くない)を屋台で買って食べるだけ。でもさすがにこれでは体力がもたないから、せめて夕食くらいはちゃんとご飯を食べなければと思った。なので、日が暮れて食事時が近づくとたまらなく憂鬱になった。

インドの街角では今でも人力車が走っている

 二回目にインドへ行ったときは、タイに暮らした後だったので、唐辛子の辛さには慣れていたものの、どうにも刺激が強いだけで味は単調だし、インド米はタイ米よりパサパサしてまずいという印象しかなかった。

 そして、三回目のインド。このときはインド東部の海岸で目撃された謎の怪魚探索が目的だった。日本人の目撃者によれば、怪魚は漁師の網にかかっていた。全長二メートルくらい、シーラカンスに似ていて全身に鋭い棘がびっしり生えていた。この怪魚、一体どうするのかと漁師に訊いたら「カレーにして食う」とのこと。こんな未確認生物のようなすごい魚もカレーなのか、と目撃者の人も呆れたという。

 俺もその怪魚カレーを食べたい! と思ったわけではない。もしかしたらまだ知られていない古代魚の生き残りかもしれず、「世紀の大発見をするぞ!」という意気込みだった。

(次号につづく)

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