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【ロッテ】ライバルはダルビッシュ? マリーンズの果敢なYouTube戦略

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/03/17

二木康太を悩ませた小学生の「将来の夢」

 石垣島キャンプでの宿舎のこと。昨シーズン、7勝を挙げた期待の4年目右腕・二木康太投手の部屋を訪れると、彼は机の上でペンを片手に「う~ん」と悩んでいた。昨年12月、鹿児島県指宿市内の小学校5年生の1クラスを対象に「夢を持つ大切さ」を語る授業を行った同投手。そんな授業を受けた生徒たち一人ひとりから石垣島に手紙が届き、読んでいる真っ最中だった。そこには子供たちによる授業の感想とそれぞれの将来の夢が書かれていた。二木はそれを受けて一人ひとりへ夢に対するエールを直筆で丁寧に送り返す作業を行っていたのだが途中、筆が止まってしまった。

「いやあ、プロ野球選手とか歌手とかは返事が書きやすいんですけどねえ……。2人ほど、将来の夢にユーチューバーと書いてありましたよ。ビックリしました。そんな時代なんですねえ……」

 ユーチューバー。最近、よく耳にする言葉だ。インターネットの動画共有サイト「YouTube」に独自の動画を投稿し注目を集める人たちが、いろいろなところで活躍していると聞く。とはいえ、子供たちが、それを将来の夢として思い描く時代になっているという現状は40代のおじさんの想像をはるかに超えている。そもそも21歳の二木が返答に戸惑うのだから、本当にここ数年の傾向なのだろう。

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小学生の夢へのエールを綴っている二木康太 ©梶原紀章

 ちなみに千葉ロッテマリーンズも「YouTube」の社会への浸透度を踏まえた結果、2013年より様々なオリジナル動画を私の方でアップする広報戦略を展開し、手ごたえを感じている。やはり選手が試合中にはない素顔を見せている動画やベンチ裏などを映した動画の反響が大きい。自称「マリーンズのユーチューバー」(一部の選手もそう呼んでくれています。本当に数人ですが……)の私が昨年、撮影をした動画で好評だったものを振り返ると、昨年新人だった平沢大河内野手が母校・仙台育英高校で綱のぼりを披露する様子。開幕戦のロッカーでの伊東勤監督によるミーティングの模様、ドラフト会議での控室でのスカウトの模様など。シリーズものでいうと試合前円陣や勝利後の選手たちの様子を映したものがある。

 昨年一年間で110本。今年はすでに45本を投入しており、2月のキャンプ中だけでも合計で約150万再生回数を記録している。球団としては様々なメリットはあるが、広報としてはマリーンズには興味がなかったけど、違う動画を見た人がたまたま見つけて目にしてくれる可能性がある点、話題になることでその動画がさらに拡散されいろいろな人に球団の魅力を知ってもらえる点。さらにいうと再生回数というリアルな数字でなにが世間でウケるか、どのようなことに興味を示すのかを判断できる材料になりやすい点が挙げられる。

野球界に突如現れた大物ユーチューバー

 そんなメリットを考えながら進めているこの活動はおかげさまで大好評(たぶん)。ただ、ここにきていろいろとやりすぎた結果、ネタ切れになりつつあるという苦しさがある一方、世のライバル・ユーチューバーの存在が気になりだしている。一般のファンの方もいろいろなマリーンズに関する動画を投稿しているわけで、公式な立場で内部からの秘蔵映像を撮影できる圧倒的なアドバンテージを持つ私が、それらに再生回数で負けるのはやはり正直言うとショックである。特にブルペンが野外にある球場(神宮、メットライフなど)は要注意。ピッチャーの迫力ある映像が外からも撮れてしまう。また、キャンプ中やファン感謝デーも怖い。こちらはカメラが一台、撮影者も一人しかいないため一か所にしかいることができない。ただ、キャンプやファン感謝デーは、いろいろな場所から同時進行でいろいろなことが起こり、進んでいる。自分がいないところの方が面白い現象が起きている可能性は十分にあるのである。そういった場所で一般の方が撮影された映像をYouTubeで見つけて反響を呼んでいると「悔しい~」と歯ぎしりしてしまう。

 そういえば、最近は野球界に大物ユーチューバーが現れた。メジャーリーガーのダルビッシュ有投手だ。自主トレ中などピッチングを中心に様々な今まで見たことがないような角度からの動画を投稿。こちらとしては「もう、やめてください」状態である。ただ、負けたくはない、もっと面白いものを見つけてファンの皆様に喜んでもらいたい、世間の反響を呼びたいというあくなき思いも湧いてくる。だから、今年の春季キャンプでは侍ジャパンの石川歩投手にカメラを持たせて撮影した映像、選手たちによる新外国人のマット・ダフィー選手のサプライズ誕生日会の映像、英二投手コーチの解説付きブルペン映像、キャンプ最終日に行う手締めの輪の中からの映像なども撮影をしてみた。一時期、当てに行く打撃(冒険をせずにある一定の再生回数を安定的に目指す映像撮影)が目立った反省も踏まえ、今年はもうとにかくどんどん再生回数は気にせずに積極的に撮影をしてアップし、マリーンズファンだけではなく野球ファンが認める「球団職員ユーチューバー」を夢見ている。

カメラを手に持つ石川歩 ©梶原紀章

「そう、そうなんですよ。夢を持つことが大事。どんな時も夢があれば、前を向けます。僕はそういうことを伝えたかったんです。挫折も苦しみも夢の途中と思えば頑張れる。みんな、頑張って欲しいなあ」

 どこから話が脱線してしまったか分からないが私の熱弁に二木は少し眠そうな目で、そう言って笑うとペンを走らせた。ユーチューバーを目指す子供たちに彼がどうアドバイスをしたかは、あえて聞かないことにした。でも、夢はなんだっていい。いろいろな夢がある社会の方が楽しいに決まっている。ユーチューバーという夢はある意味で誰にでもチャレンジする権利がある素晴らしい目標だ。ちなみに二木の昨シーズンの夢は「新人王を獲って同じく鹿児島出身の人気アイドル 柏木由紀さんとなにかの企画で対談をさせていただきたい」だった(これには伏線があり、14年に石川歩投手が「新人王を獲ったら大好きなタレントの臼田あさ美さんに会いたい」と口にしたことで対談が実現をした経緯がある。当時、石川はアマチュア時代から大切にしていた写真集にサインをしてもらっていた)。まあ、夢はいろいろ……。だからこそ、素晴らしい。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

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