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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2015/12/05

追悼・宇江佐真理さん
――伊三次が作ってきた道

genre : エンタメ, 読書

 宇江佐真理さんの訃報が飛び込んできたのは、看板シリーズ「髪結い伊三次捕物余話」の最新刊となる15冊目『竈河岸』(文藝春秋)が出て、わずか1週間後のことだった。

 1995年、髪結い伊三次が「オール讀物」誌上に初登場してから――それはつまり宇江佐真理が登場してからということになるのだが――ちょうど20年になる。読み返したくなって、第1作『幻の声』を手に取った。少しのつもりが止まらなくなった。一気に全巻、読み通してしまった。やはり、伊三次は面白い。べらぼうに面白い。

 読んだことない、という方のために設定だけ紹介する。主人公の伊三次は「廻り髪結い」という仕事をしている。店を持たずに、顧客の家を回って髪結いをする仕事だ。余談だが、髪結いの店のことを「床」という。理髪店を床屋と呼ぶのは、ここから来ている。

 伊三次はもともと、許可を得ない「忍び髪結い」をしていたが、それがばれて同心の不破友之進に捕まってしまう。ところが伊三次の人柄を見抜いた不破は、自分の手下になるという条件で彼を放免し、正式に髪結いとして働けるよう取り計らってやった。以来、伊三次は不破の捕物を手伝うようになる。これが捕物帖としての、本書の核だ。

 もうひとつの核は人間模様にある。伊三次にはお文という恋人がいた。深川の芸者で、経済的にも自立した気風のいい姐御だ。だもんだから男のプライドが邪魔をして、伊三次は自分の店を構えるまでプロポーズはしないと決めていた。おまけに二人とも短気で意地っ張り。シリーズの序盤では、このふたりがケンカするたびに読者は「素直に謝れよ!」「なぜそこでちゃんと説明しないっ!」とヤキモキしながら見守ったものだ。

竈河岸 髪結い伊三次捕物余話

宇江佐真理 (著)

文藝春秋
2015年10月31日発売

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幻の声―髪結い伊三次捕物余話(文春文庫)

宇江佐真理 (著)

文藝春秋
2000年04月07日発売

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