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雑誌ジャーナリズム大賞「ベッキー禁断愛」はいかにして生まれたのか? #3

雑誌ジャーナリズム大賞「ベッキー禁断愛」はいかにして生まれたのか? #3

いつまで続くかわからない張り込み

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『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(週刊文春編集部 著/角川新書)

「週刊文春」取材の裏側を、解説と再現ドキュメントで公開する『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』(角川新書)が刊行されました。発売を記念し、「Scoop1 “スキャンダル処女”ベッキー禁断愛の場合」の章を公開します。“文春砲”という言葉が広く知られるきっかけとなり、第23回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞」を受賞したスクープ。その舞台裏にあったものとは――。(全4回)

※前回までの記事はこちら→#1#2

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まさかのビンゴ! まさかの再ロスト!!

 大山は空港から東京の棚橋に電話して、これからどうするべきかを相談した。

 時間的にいっても、どこかのレストランなどで合流してランチをとる可能性もあるのではないかと考えられた。そこで大山の頭にひらめいたのが、ある有名なちゃんぽん店だった。さまざまな情報を集めていた成果だった。その店が川谷のひいきであることを思い出したのだ。

©iStock.com

 ビンゴだった。ちゃんぽん店に福地を行かせると、本当に川谷の父親の車があった。

 その報告を聞いて、これはベッキーも合流しているか、これから合流するに違いないと考えられた。

 だが、そこで再び福地が失態を演じてしまう。店の中に川谷たちがいないかと様子を見に行っているうちに、駐車場にあった川谷の父親の車が消えていたのだ。

〈すみません、ロスト……〉

 LINEにそんな言葉が送られてきたのを見て、大山はまた頭を抱えた。

〈えええ!〉

 ここでまた振り出しに戻ってしまった。

 入稿の期限は刻一刻と迫っている。

 福地と連絡を取ると、二度目のロストで明らかにテンパっていた。だからといって、そのまま何もさせないわけにもいかない。福地とカメラマンのコンビには、ハウステンボスなど、長崎観光としてベッキーたちが行きそうなところを次々に回らせた。

 そのあいだに東京の棚橋は、ベッキーが東京に戻るのは翌日の五日らしいという情報を入手していた。

 ホテルはチェックアウトしているので、もう一泊はどうするのか……。

 大山はあることを思い出し、棚橋に電話をかけた。

「棚橋さん、まさか、実家に一緒にいるってことないですかね? お父さん、ミーハーっぽいし」

 実は、大山は事前にこんな情報を得ていた。高校教師の川谷の父親が、生徒に自分の息子は「ゲスの極み乙女。」の川谷であると、嬉(うれ)しそうに語っていたというのだ。それほど自慢の息子なら、家に連れて帰りたいのではと大山は考えた。

 すぐにもう一人の記者である坂本ともう一人のカメラマンのコンビを川谷の実家があるマンションに向かわせた。

 大山はその後、福地と合流した。

「大山さん、すみません……。情けないっす」

「現場慣れしてないと難しいから、しょうがないよ」

張り込み開始……

 坂本から連絡が入ったのは十六時二十七分だった。

〈帰ってきました。車には3人〉

 川谷の実家であるマンションに、父親の車が帰ってきたのだ。しかも、その車にはベッキーも乗っていたというのだから、ちゃんぽん店でのビンゴ以上に嬉しい知らせだった。大山の目は自然に輝いた。

「福地、よかったね。これでなんとかなるよ」

 大山は福地たちのレンタカーで問題のマンションに向かい、坂本たちと合流した。

 マンションは地下に駐車場があるタイプだった。車で出てきた場合は、捕まえられるかどうかわからない。ただ、それでもやはりベッキーが川谷の実家へ行ったという事実は大きい。入っていくときの写真は撮れなかったが、出て行くときには写真を撮りたい。

 そして、大山はそこで何とかベッキーを直撃したかった。

 合流して五人になったあと、持ち場を分担して張り込みすることになったが、張り込みには難しい場所だった。

 地下の駐車場は敷地内なので入れないが、車で出て行かれたら、呼び止めるのはかなり難しい。停めるには、車の前に手を広げて立ちはだかるしかなさそうだ。

 歩いて出てくる場合は車の出口とは別の玄関になる。徒歩で外出する可能性は低いと思われたが、それでも出口と玄関をそれぞれマークしないわけにはいかない。

 そこで、車二台は駐車場の出口から少し離れた場所に、ある程度の間隔をあけて停めておき、そこから人が出入りする玄関もチェックするようにした。

 二台の車に四人が待機するほか、一人はマンション近くの高台に立ち張りし、実家のある階の様子を窺(うかが)うことにした。

 車内での張り込みはまだいいが、一月に外で張り込みするのはかなり寒い。それだけではない。気をつけないと、近くの住民から不審者だと思われてしまう。警察を呼ばれるようなケースも皆無ではない。このときも高台で立ち張りしていた一人は近隣住民に不審な目で見られているのを感じ、途中でそこを離れている。張り込み開始から三時間ほどが経った頃のことだった。

 それぞれの配置についた段階では、この張り込みがいつまで続くかわからないと考えながら、取材班全員が早く次の“動き”があることを願っていた。

©iStock.com

 ベッキーが妻帯者である川谷の実家に宿泊するというのは常識的には考えにくい。しかし可能性はゼロではない。

「泊まらないでよ。早く出てきて」

 大山だけでなく五人みんなが心の中でそう訴えていた。

 車の中では、リピート再生していた「ゲスの極み」の曲が流れていた。