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とんかつのドン「全とん連」澁谷会長がすべてを語る

「とんかつは白いごはんのおかず。それが私の信念」

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全日本とんかつ連盟」という団体をご存知だろうか。いくつかのとんかつ屋で見かける、あのかわいらしいブタちゃんのマークが目印の、あの団体だ。ウェブサイトだってある。

 しかし気にしてはみたところで、ウェブサイトには加盟店以外の情報はほぼないし、いったいどういう団体なのか気になっている御仁も多いことだろう。

 そこで、全とん連の会長を務めているのが銀座の名店「梅林」の社長、との情報を手に入れた筆者は、さっそく澁谷昌也会長へのインタビューを行った。

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――はじめまして、とんかつ研究家のかつとんたろうと申します。どうぞよろしくお願いいたします。

澁谷昌也会長(以下、澁谷):全日本とんかつ連盟の会長を務めております澁谷です。よろしくお願いします。

澁谷会長。銀座梅林の前にて

養豚所計画と「豚魂慰霊祭」

――まず全とん連とは、どういう団体なのでしょうか。

澁谷:「全日本とんかつ連盟」という名前は戦後からですが、その前身ができたのが昭和13年。梅林の先々代、わたしの祖父である澁谷信勝も創設メンバーのひとりです。

 それで当初の連盟の目的なんですが、実はもともとは、みんなで一緒に養豚所をやろうという話だったらしいんですね。

――えっ! 養豚場ですか!?

澁谷:そう。でもいくらとんかつ屋といっても畜産の素人ですから、結局その話は実現しなかったようです。

 それで実際にはどのような活動をしているかというと、まず2年に1度、連盟で豚魂慰霊祭というものを行っていました。わたしたちは豚の命をいただいて営業をしているわけですから。そのあとにはみんなで親睦会。あとは一緒に旅行したり、新年会をやったりですとか、その程度ですね。

――なるほど。とんかつ屋同士の交流が主な活動なのですね。

澁谷:とは言っても、その慰霊祭すらもなかなかできないような状態になってきています。ほかにもとんかつの業界団体として何か社会に貢献しよう、ということで40年以上にわたって児童養護施設への慈善活動も行っていましたが、いろいろな問題もあって数年前に止めざるをえなくなりました。
 
――やはり時代の変化、ということなんでしょうか。

澁谷:とんかつ屋はご主人ひとりでやっているようなこぢんまりとした店も多いですから、なかなか難しい時代になってきたな、とは感じています。

 加盟店も多いときには100店くらいあったらしいです。全国各地に支部があって。東京支部、名古屋支部、大阪支部という形で大都市を中心にね。しかしわたしが30数年前に店を父から継いで、とんかつ連盟にはじめて顔を出したときには40店くらいにまで減り、いまはもっと減って17店です。

全とん連、さらに略してZ.N.T.R.

月の会費は1000円くらい

――そんなに減ってしまうものなんですね……。

澁谷:そういった状況ですので、現状としてはだんだん活動休止のような形になってしまっています。ある時期、新しく参加していただけませんか、といくつかのとんかつのお店にお手紙を送ってみたことがあるんです。月の会費が1000円くらいなものですから。それで何店か加盟してはくれたんですけれど、やっぱり難しいんですよね。特に小さいお店だとご主人が自らお店に立っていらっしゃることもありますから、慰霊祭や新年会、親睦会にしても、日程がどうしても合わず、申し訳ないけどぜんぜん出られないし、と。

――それはたしかに難しそうですね……。ちなみに現在の会長さんは澁谷さんなのですが、歴代の会長さんはどういったお店の方だったのでしょう。

澁谷:いまはもうお店がなくなってしまいましたが、わたしの前は新宿の「三金」のご主人、野田さん。ちょうどアルタのすぐ裏にあったお店です。その前は、こちらももうお店を畳まれてしまっているのですが、上野「楽天」の野寺さんが会長職に就いていた時期が長かったですね。 

 わたしの代になって4年ほどですが、まだ一度も慰霊祭も開催できておりません。