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又吉 直樹
2017/03/22

又吉直樹インタビュー「文学の批評に望むこと」

「文藝芸人」(文春ムック)

「火花」の映画化、2年ぶりに発表した新作「劇場」で掲載誌の「新潮」が1万部の増刷を決めるなど、作家・又吉直樹氏の勢いが止まらない。「火花」の芥川賞受賞以来、又吉氏は作家としてさまざまな批評の場に立つことになった。それをどのように受け止め、又吉氏は「劇場」を完成させたのか。本人がインタビューに答えた。(聞き手=森山裕之)

※本記事は「文藝芸人」(文春ムック)からの抜粋です。全文は誌面でご覧ください。

◆ ◆ ◆

――作品への批評に対して、普段ではなかなか聞けないかなり踏み込んだ返答をしていることに、意外に思うと共に、覚悟を感じました。

 文学の世界でも、「火花」は様々なかたちで批評されました。批評がないと作品やジャンルの向上がないという面もありますから、あっていいんやと思います。

 でも、前向きなものと前向きじゃないものがありますよね。「ちょっとこれ、恥かかそうとしてるやん」とか、「なめてるやん」という。言い方ひとつでもあります。そういうものに対してムキになってもしょうがないですし、気にせんとこうと。厳しい批判であっても「なるほど」と思うものはありました。そういうものはちゃんと吸収しようと思いました。

 芥川賞の選評で作家の村上龍さんが書かれていました。

又吉直樹(またよし・なおき)/1980年大阪府出身。2003年綾部祐二と「ピース」を結成。15年「火花」で芥川賞を受賞、300万部の大ベストセラーに。受賞後初の作品、「劇場」を発表した。

「作者自身にも把握できていない、無意識の領域からの、未分化の、奔流のような表現がない。だから新人作家だけが持つ『手がつけられない恐さ』『不思議な魅力を持つ過剰や欠落』がない」

 僕が「火花」を書いたのは34歳の時でした。

 この小説を書く時、若さの持つ衝動みたいなものをいかに出すかということに苦心しました。自分の中でちょっと不確かになりつつある、おぼろげになりつつあるものを拾い上げ、この小説に入れたかった。

 僕はすでに、「火花」の登場人物が持ちえない、前向きな諦(あきら)めのようなものを持っています。ちやほやされようが叩きのめされようが、そんなことは人間生きていたらあることや。その上で頑張るんや。立ち止まっているだけ時間の無駄や。そういう30代半ばの人間の考えがあります。

 それを一度捨て、登場人物たちに感情移入していかなあかん。距離を置いた上で、そこはやり切ったつもりでした。でも村上龍さんの選評を読み、「やっぱりわかるんや」と思いました。自分が尊敬している作家に言われた言葉は、どんなものよりも響きましたね。

 一方で、文学の世界の批評が、もう少し風通しがよくなればいいと思ったのは確かです。作品と批評がもっと良い関係であるべきだと思いました。

 そうですね。人間ですから、本を読む時、それ以外の感情は当然あるんですが、結局それはゴミみたいなものです。そういうものを取り除いた上で作品に入っていく方が絶対面白い。自分が読者でも、「こいつ嫌いやわ」という感情を一度捨てて読みたい。作品のためにも。

 作品と関係ない部分を攻撃したり、おちょくったり、そういうしょうもないものがいらないんですよね。それをやっているやつが邪魔なんです。一番は面白いか面白くないか、何が好きで何が嫌いかということだけであったらなと。

 こう強く思うのも、僕がもともと作家じゃなかったからでしょうね。「本が好き」「小説は面白い」と言った時の周りの反応は想像できますよ。「あいつ何かっこつけてんねん」と。でも僕は、本が、小説が、暗くて内輪な感じがするという誤解をなんとか解きたかった。それは作品ではなく、本や小説の体質や雰囲気に対して向けられた偏見だったからです。

 作家は本当にすごいし、小説はこんなに面白いと、テレビに出始めたころから、誰に頼まれるでもなく言い続けてきました。作家さんや出版業界の人たちに、「なんやねん、あいつ。わかったようなこと言うてるな」と思われようとも――そのぐらいの自意識はあるんで、単純に本が好きだから言い続けました。

 このジャンルが盛り上がれば、小説家が現代でもスターであれば。面白いけど文芸誌に載ることができない、本を出すことができない才能が世に出られるかもしれない。面白いけどテレビに出られへん若手芸人と一緒です。

 やっぱり本が好きだから、可能性に満ちているジャンルだと思っているから、読者として本の世界が活性化していって欲しいと、心の底から思っています。

 この業界が縮小して、本が紙で読まれへんとか、1冊3万円みたいな世界になるとか、有名なひと握りの作家の本しか読まれへんみたいなことになるのはイヤなんです。

 でも、いざ自分で小説を書いてみたら、みんなが言っていた意味が少しわかりました。本の世界にも、「しょうもないやつ、けっこうおるな」と。作家や本の世界に対して抱いていた幻想が崩れ落ちてゆきました。

 面白い人はほんまに面白いし、そうじゃない人もいっぱいいました。それはどのジャンルでもそうなのかもしれませんが。

(2017年2月19日、六本木にて収録)

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