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連載近田春夫の考えるヒット

近田 春夫
2017/03/29

氷川きよし30代最後の曲に思う。そろそろ超お気楽な曲を聴きたい

『男の絶唱』(氷川きよし)/『流れ』(遊助)

絵=安斎肇

 氷川きよしの、これが三十代最後の吹き込みとなるらしい、また通算では30枚目にもあたるというシングルが、この『男の絶唱』である。

 そう聞いて漠然と「もう四十なんだぁ……」。そんなことも思ってしまった俺なのであったが、その“演歌界のプリンス”のキャリアにふと想いなど致しておりますうち――人に歴史ありではないが――本当にここまでこの人はスター街道だけを歩んできた人だったのかもと。そんな気持ちにさせられたのだった。あ。別段何の意味もなかったですねこのくだりは……失礼。

 それよりぶっちゃけ、それこそまさに、これからいま四十代に突入せんとす、この節目の時に、氷川きよしは、どのような手で勝負に打って出ようとしているのであるか? 少なくとも今、この状況に、彼が燃えていない訳はないだろう。それは間違いないと思うのであるが果たして……?

 幸いネット上に「公式」を謳った映像付き音源があったので、観始めた。

 すると。絵にしろ音にしろ、このような質感をジャポネスク調と呼べばよいのか、一種共通するのは、ストイックなようで実はスノッブというかゴージャスだったりする、そんな、いわゆる“堅気ではない雰囲気”を――あるいは独特な時代錯誤のような空気か――醸し出す為の、やり方/スキルである。

男の絶唱/氷川きよし(日本コロムビア)“30代最後”と謳ったシングル。男の決意を歌いこんだとのこと。オリコン週間ランキング3位に。

 その辺りのいわば官能の匙加減、塩梅がどうしても商売上重要になってくるのが、まさしく演歌/歌謡曲の世界とはいえるだろう。jpopではそうした意味での生々しさのようなものは、あまり重要なファクターではない?のかどうか。それはまた今度考える。

 ふと気づいた。

 歌謡曲や演歌の歌詞世界では何も問題なくとも、jpopに行くと“はねられる”人がいる。いやいや、オーバーないいまわしなんかではない。例えば『浪曲子守唄』の主人公だ。一体彼は、どうやってjpopの中で生きていられるというのか? 相当大変だよ。

 しかし『男の絶唱』って、それにしてもjpopとかの曲タイトルとしては絶対に無理?っしょ(笑)。

 今回、この作品に何より感じ入ったのが、実はこのタイトルの圧倒的とでもいうべき強さだったのである。しかし、そのあまりのパワーゆえに、これはどうしても歌い手を選んでしまう。そういう曲だとも思った。

 そうした前提において、このタイトルにも何の気負いなく自然体で臨んでみせ、そしてサラリとこなしてみせた。

流れ/遊助(SONY)どこか懐かしい沖縄風は、上地雄輔のルーツからなのか。作曲者は岐阜出身で神奈川が活動拠点という。

 いってみれば「演歌歌手氷川きよし」の“自負”のようなものを、この歌いっぷりから、私は感じたのだけれど、一方この曲が難しすぎるってことも、正直申して、ないわけではない……と思う。

 そろそろ超お気楽な氷川きよしも聴きたい。決して私だけではない。そんな気分も世には充満しているはずだ。

 遊助。

 聴いていると、たしかにある種の心地良さはあるね。

今週の国語審議「このあいだメールのやりとりで面白かったんだけど、相手が“55分に電話します。刻んで恐縮です”と送ってきてさ。この“刻む”って言葉、戦前の人が読んでもたぶんわからないんじゃないかな。いつの間にか使い出して、いま普通に使ってる言葉っていろいろありそうだね」と近田春夫氏。「いやぁ、日本語もスゴイことになってきてるね!」

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