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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/03/28

拘束されたインドの空港で出されたカレーの美味しさ!

イラスト 小幡彩貴

 謎の怪魚を探しにインドへ行ったときの話インドのカレーは本当においしいのかのつづき。

 シーラカンスに匹敵する世紀の大発見を夢見た私は、現地オリッサ州の公用語であるオリヤー語を習ったり、魚を見つけた際に鑑定してもらうよう日本の著名な古生物学者に協力をお願いしたりして万全の準備を整えてインドへ向かった。

 ところがそこにはまたしても想像を絶する悪夢が待っていた。降り立ったコルコタ国際空港のイミグレーションで入国を拒否され、そのまま身柄を拘束されてしまったのだ。実は前回、インドに――やむを得ずなのだが――密入国してしまい強制送還されていた。そのときの記録がちゃんと残っていたのだ。

 世紀の大発見どころか世紀の茶番劇である。意気消沈しているうえに、ひいていた風邪が悪化して熱まで出ていた。食欲など皆無な私のところへアルミパックに入った(おそらく空港職員用の)弁当が運ばれてきた。カレーの匂いがする。「こんなもん、食えるか!」と思った。今、この世でいちばん食べたくないものだった。

 でもせっかく持ってきてくれたんだし、と形ばかりスプーンですくって口に入れたら驚いた。むちゃくちゃ美味い! 辛さはほどほどでスパイスは複雑かつまろやか、柔らかく胃におさまっていく。米もパサパサというより、「軽い食味」で、ほんとうに食べやすい。

現地にはおいしいカレーがたくさんあるらしい(涙)

 どうやら今まで旅行中に食べていたのは単に安食堂のもので、同じカレーも中級以上になれば、別物らしい。弱って干からびた心身がみるみるうちに緩み、ほどけていく感じがしたほどだ。

 インドカレー、すごい!! と開眼したのだが、時すでに遅し。その後強制送還された私はいまだにブラックリストに絶賛掲載中でインドに入国できない。

 本場のインドカレーは私にとって文字通り、「悲劇の料理」なのである。