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アナグラム(1)「マジカル頭脳パワー」のシャッフルクイズにハマった小学生時代

2015/04/12

genre : エンタメ, 読書

note

 その当時はアナグラムという名称は知らず、個人的にシャッフルと呼び続けていた。「マジカル頭脳パワー!!」の影響があったので、アナグラムにしていたのは主に人名ばかりである。Mr.Childrenで作ったときは「なんて斬新なことをしてみせたんだ!」と一人でにやにやしていたが、それまでのアナグラムの長い歴史のことを考えると斬新でも何でもなかった。所詮は小学生の浅知恵である。しかし何にせよ、「マジカル頭脳パワー!!」という名作クイズ番組が私の言葉遊び趣味に大きな影響を与えたことは確かである。「あるなしクイズ」なんかも影響を受けてずいぶんと自分で作ったものだ。もちろんやっぱり出題する相手はいなかった。「いつか出題できるような友達ができたらいいなあ」とも特に思っていなかった。いや、こんなことを書いてしまうのは、ほんのちょっとだけ思っていたからかもしれない。

「マジカル頭脳パワー!!」ではこの「シャッフルクイズ」のバリエーションとして、途中から「ダブルシャッフルクイズ」というのが登場するようになった。二つの言葉を混ぜ合わせてシャッフルしたというかたちで、解答者はアナグラムに使われている二つの単語を両方正解しなければいけないルールだった。「けつ見たね! 恥ずかしい!」は「ハツカネズミ」と「しいたけ」。「毛虫から父ちゃん」は「志村けん」と「加藤茶」。シャッフルクイズの難易度が上がった強化版だといえるが、このときすでに自分でもアナグラムを作っていた私はむしろ問題作成者の心情がわかってにやりとした。アナグラムを作っているとどうしても、「ああ~、あとこの一文字があれば単語として成立するのに!」ということが非常に多い。

清原和博→きよはらかずひろ

 この場合、「し」さえあれば「恥ずかしき」が成立するのに~! と喚いてしまう。というより最初に「きよはらかずひろ」を見た瞬間は幻の「し」が確かに見えていて、「恥ずかしいんだな」と勝手に判断してしまうのだ。恥ずかしいのは自分の方だよ!

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 アナグラムを作っていると、数え切れないくらいこの「幻のもう一文字現象」に悩まされることになる。「ダブルシャッフルクイズ」も、同じ現象に悩まされた人がそれでも「あと一文字あれば成立するのに一文字足りないかわいそうなやつ」を殺したくなくてひねり出したものなのではないかと直観していた。そして何となくそんな問題作成者の誠実さに勝手に共感していたのである。アナグラムを通した、ワードゲーマー同士の友情が(一方的に)芽生えていたのかもしれない。

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