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楠木 建
2017/03/28

「お味の方は大丈夫だったですか」街にあふれる嫌いな言葉

楠木建の「好き」と「嫌い」――好き:「おむすび」嫌い:「おにぎり」

「おにぎり」への嫌悪

 あくまでも個人的な好き嫌いの話として聞いていただきたい。

 おむすびが大好きである。食べ物としてホントに良くできていると思う。携帯できる。手軽に食べられる。安い。そのときのお腹の空き加減に合わせて量の調整もきく。そして、しみじみと美味しい。日本発の食品カテゴリーとしては、焼鳥に並ぶ大発明だと思う。具は鮭がいちばん好き。カリカリ梅を刻んだのをまぶしたのもいい(焼鳥を入れたのはあまり好きではない。両雄並び立たず、ということか。ただし、焼鳥をおかずにおむすびを食べるのは異様にスキ)。

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 ところが、おにぎりは好きではない。嫌悪しているといってもよい。いや、スキなのだが、「おにぎり」という言葉が嫌いなのである。子供のころから「おにぎり」という言葉だけは使わないようにしている。その理由をつらつら考えてみたのだが、こればっかりはよく分からない。「おむすびころりん」のお話が大好きだったので、幼児期に刷り込まれたのかもしれない。

「汁」への憎悪

 それ以上に嫌悪している言葉がある。「汁(しる)」である。憎悪しているといってもよい。だから、「お味噌汁」とは決して言わない。あくまでも「おみおつけ」。「今日は汁物が食べたい気分だな……」とかいう人とは友達になりたくない。

「すまし汁」となると、音が「ジル」と濁るので、もっとイヤだ(ただし、サンダーのほうのジルは嫌いではない。ジル・サンダーの服は高価なので買ったことはないが、ユニクロとのコラボレーションの「+J」は良かった。ここのセーターは長いこと愛用している)。「おすまし」とか「お吸いもの」といっていただきたい。

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 お味噌汁やすまし汁は言い替えができるのでまだいいが、困るのは豚汁。食品としては別に嫌いではないのだが、別の言葉に言い替えられない。「豚肉の入ったおみおつけ」というのもちょっと違う気がする。「豚汁」という言葉を使いたくないので、食べ物屋で注文することもない。

「鼻汁」。鼻汁を好きという人はよっぽどのマニアに限られるとは思うが、言葉として鳥肌が立つほど嫌いである。ところが、「鼻水」というとまったく気にならない。何か愛すべきもののようにさえ思えてくる(俺、ちょっとヘンなのかな?)。

 その一方で、「肉汁」はイヤではない。むしろ好きな部類に入る。同じ濁るにしても、「ジル」はダメだが、「ジュウ」はなぜかいいのである。じゅうじゅうと焼けたハンバーグにナイフを入れた瞬間に出てくる肉汁。言葉を聞いただけで食欲をそそられる。「シル」や「ジル」がよっぽど僕の嫌いのツボに刺さるらしい。

「すみません」という言葉も嫌いだ。決して使わないようにしている。日本語には「ごめんなさい」というイイ言葉があるのに、なぜ「すみません」というヘンな言葉を使うのか理解に苦しむ(あくまでも僕の個人的な好き嫌いなので、気を悪くした人がいたらごめんなさい)。

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