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九代目 松本幸四郎×七代目 市川染五郎 ひとつ道をきわめる

JR東海

すべてを演れる「歌舞伎職人」になりたい。

いちかわ・そめごろう 1973年生れ。81年、七代目襲名。2014年、父祖ゆかりの大役・弁慶を勤めた。四代目松本金太郎は長男。

幸四郎 君は「歌舞伎職人になりたい」って言ってるね。確かに役者は自分の手に職(芸)をつける、アーティストというよりもアルティザンにならないといけない。好きで、命を懸けて、今自分がしなければという使命感。さっき話した新幹線の点検をされる方もアルティザンじゃないかと思うし、仕事に打ち込む人は、皆、そうかもしれない。

染五郎 自分を「職人」というからには、どれだけ好きで、何をどれだけできるかです。歌舞伎の作品は無数にあるけれど、それらのすべてをできるようになりたい。

幸四郎 小さい時から歌舞伎がほんとに好きで、着物着て信玄袋に小倉の昆布入れて、幼稚園行くよりも歌舞伎座に来ていた。僕以上に変わってる子だったよ。

染五郎 歌舞伎しか好きでない人生に、自信を持ちたい。一度だけの人生をひとつの道にかける、そういう生き方をお見せしたい思いはあります。

幸四郎 なぜ僕が今度の襲名を決心したかというと、一番の根本は、ここ10年くらい見ていて、君の芸がもう染五郎という器からあふれ出てきているように思えたんだ。舞台の精進はもちろん、ラスベガスで新作歌舞伎を主演して演出もしたり、テレビや映画で別の世界も見ている。そこまでの役者になってくれたのかと親としては嬉しかった反面、ああ、もったいないなと。もう器をかえたらいいと思ったんだ。37年ぶりに歌舞伎座で再び三代同時襲名ができること、それは奇跡。同じレールの上でも、その道を進むと決めた者は、その上でどんどん進化していけばいい。

染五郎 はい。

幸四郎 君が新幹線で八代目染五郎(金太郎)がリニア、そして僕は在来線。いい響きだね、在来線てのは。安定感があって、何かちょっとペーソスも感じられて。旅の味わいがある(笑)。

在来線、東海道新幹線、リニア中央新幹線、3世代の鉄道が、日本の交通の大動脈を支える。超電導リニアによる中央新幹線は営業時速500km、2027年に品川-名古屋間を40分で結ぶ予定。

染五郎 僕は新幹線で金太郎がリニアですか(笑)。リニアは楽しみですね、10年後には品川と名古屋間が開通予定で、所要時間40分。さらに延伸して東京・大阪が1時間だそうで、御園座も松竹座も通勤圏。

幸四郎 リニア世代は移動が楽になるね。

染五郎 それは嬉しいけど、これからの時代に生きる歌舞伎役者ってどういうふうになるんだろうと思いますね。金太郎のひいおじいさん(白鸚)はカラーの映像が、父親の僕になると初舞台からの映像が残ってる。一方で舞台はその時その場に行かなきゃ見れないとてもアナログなもの。そういったバランスをどうとっていくのかなと。

幸四郎 歌舞伎は400年の歴史があり、過去と未来に常に介在しているけれど、それでも僕は、今に確かさを感じる。三代襲名に向けて毎日努力している、それは「今」の積み重ねだし、今この時に席に座ってくださったお客さまに感動を与えられなかったらいけない。

染五郎 ベースがしっかりしてるからこそ今があって、新しい技術を追求し、それを未来に受け継いでいくということですね。僕も名前は変わっても、染五郎にできて幸四郎になるとできなくなることはない。変わらずに広がっていくのだと思っています。

幸四郎 これから僕、二代目白鸚の人生はロスタイムっぽくなる。でもこのアディショナルタイムというのはなかなか捨てたもんじゃなくてね(笑)、点数が入ることがあるし、ここから一発逆転することもある。そういうことを、三代同時襲名披露の新幹線移動中に考えたいと思ってますよ。


photograph:Keiji Ishikawa
hair&make-up:Mikami Yasuhiro(Pittura)

提供=JR東海

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