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女の友情を書きたい。「ドロドロして怖い」という価値観と戦っていきたい――柚木麻子(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/06/14

genre : エンタメ, 読書

note

「女同士って難しい」に反省して『あまからカルテット』

――『終点のあの子』はほろ苦さもある作品でしたが、次の『あまからカルテット』は社会人の女性たちが仲間のピンチに結束して問題解決に奔走するという、コミカルな話。これも連作でしたね。

あまからカルテット (文春文庫)

柚木 麻子(著)

文藝春秋
2013年11月8日 発売

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柚木 『終点のあの子』で「いじめの話だ」「女同士って難しい」と言われてしまい、女同士はいいものだと伝えられなかったという反省があったんです。それで、女の子同士が仲のいい話を書きたくて、これの第1話を書きました。これも短編1本のつもりだったものを、長くしてくれと言われて連作にしたものです。

――最初から連作かと思いました。各章の中心人物が順番に変わっていって、最後は仲間みんなの話になるという、連作らしい構成だったので。では次の『嘆きの美女』(2011年刊/のち朝日文庫)は? これは長編ですね。

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嘆きの美女 (朝日文庫)

柚木麻子(著)

朝日新聞出版
2014年6月6日 発売

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柚木 これはネット連載でした。『あまからカルテット』がちょっと話題になったので、この、みんなが元気になる路線でいこうと思いました。この頃は、人を不快にさせたくないという気持ちが異様に強くなっていて、女友達をいいものだと思ってもらうためには手段を選ばない、という感じでした。最初はきれいではない子が美しくなっていく話にするつもりでしたが、ツイッターの感想を見ていると主人公の耶居子のブスライフを面白がる人が多くて意外でした(笑)。

 これは、きれいな子ときれいではない子は友情を育めないという、男性の目線と社会の決めつけに対する反発がありました。きれいな子がちやほやされるのを、きれいじゃない子は嫌がるはずだというのは社会の刷り込みで、当人たちは気にしてないのに、って。

 私も瑛子ちゃんが美人なので、「あんなきれいな子が友達でつらくないか」みたいなことを言われたことがあるんです。私は瑛子ちゃんはきれいだけれど変なやつだとも思っていて同志の意識があるので、あんまりそういうことは感じていませんでした。で、それって社会の決めつけだなって思ったんですよね。だからこれはきれいな子ときれいじゃない子が仲良くなるという話、みんなが友情っていいなと思える話にしたんですけれど、そうなると心に澱が溜まって『けむたい後輩』で第1回目の爆発が起きるという。

――大爆発でしたねえ(笑)。特別な存在でありたい自意識過剰な女子大生が、彼女を天真爛漫に慕ってくる後輩によって疲弊していくという、ブラックな話でした。単行本ではその次が『早稲女、女、男』ですね。出身大学によるタイプの違いを小説にしているんですよね。

けむたい後輩 (幻冬舎文庫)

柚木 麻子(著)

幻冬舎
2014年12月4日 発売

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早稲女、女、男 (祥伝社文庫)

柚木 麻子(著)

祥伝社
2015年9月2日 発売

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柚木 今読むと完全にトンデモ小説です。当時の私は東京しか見えてなくて、東京でしか通じない局地的な話を書いてしまいました。担当編集者が「私は早稲女だからモテないんですよ」というのを聞いて「それ面白い」って言って書いて、2人でアハハハって笑ってたんです。同人誌感覚だったのかもしれません。