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女の友情を書きたい。「ドロドロして怖い」という価値観と戦っていきたい――柚木麻子(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/06/14

genre : エンタメ, 読書

読者からの質問「シナリオを書いていたことの影響は?」

 

●柚木先生がいちばん幸せを感じるのはどんな時でしょうか。(20代女性)

柚木 1人で炭水化物を食べている時。みんなと食べると楽しくて、食事する幸せに集中できないので。おにぎりとかが食べたいですね。

●『anan』の不定期連載のドラマ評を楽しく読んでいます。これまで見たなかで好きなドラマを3つ教えてください!(40代女性)

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柚木 『水曜日の情事』、『阿修羅のごとく』、そして海外ドラマからは『フレンズ』です!

●以前、ドラマのシナリオを書いていたことがあるそうですが、小説の執筆になにか影響はありますか。(40代女性)

柚木 ぱーっと書き飛ばしちゃったり、言葉での説明が足りなかったり、日本のドラマのお約束をつい律儀に守ってしまったりと、その影響で失敗したことも大量にありますが、と同時に、なんというか、楽しませるために緩急をつけるといったエンタメの基礎は学べたかもしれません。でもそのせいで鋳型にハマりがちという欠点はあります。小説がドラマのノベライズみたいになってしまうのは反省点でもあるんですけれど、私の場合もう染みついているので、長所だと思うことにしました。少しずつ直しながら頑張っていきます。

●柚木さんの作品は女性の心理描写にハッとさせられます。コミックでも女性の心理描写の細かい作品がありますが、柚木さんも読みますか? 好きな作品を教えてください。(30代女性)

柚木 東村アキコさんのコミックはすごく好きだし、玖保キリコさんの漫画も好き。玖保さんは最小限の線で孤独や葛藤を示されていて、そこがすごいですよね。海野つなみさんも大好き。この間、人生初のサイン会に瑛子ちゃんと行くつもりだったのに入院して行けませんでした。瑛子ちゃんは12歳から海野さんのファンなんです。『逃げるは恥だが役に立つ』でブレイクされたんですが、これはすごい漫画です! 契約結婚から恋が生まれる話ですが、とにかくシビアで面白くて、救いもあって、私はこの「逃げ恥」がすごく好きです。

●作家の朝井リョウさんと仲がよいと聞いたのですが、面白エピソードが聞きたいです。(20代女性)

柚木 朝井さんはそんなに面白くなくて、私が面白いんです! 窪美澄さんの家でみんなで『水曜日の情事』を見ていた時、主題歌の『Candy Rain』が流れると2人で同時に踊りだしたんですけれど、朝井さんの踊りがうますぎて私の踊りが下手すぎて、窪さんがすっごく笑っていました。

●ともさかりえさんを好きな理由を教えてください。(40代女性)

柚木 『コラ!なんばしよっと』の頃から私の青春のアイドルなんです。外見がすごく好きだしファッションアイコンでもあって。アイドルがお仕着せの服を着させられているなかでもともさかさんはファッションを自分のものにしていて、90年代のパリジェンヌに対する憧れが残っていた世代にとってはぐっとくるお洋服を着ていらして。髪型も含め上品でベーシックでそれにお芝居がなんせうまい。ガタガタ言わずに『すいか』というドラマを見てください!

●雰囲気のある女性とは、どのような人だと考えますか?(20代女性)

柚木 雰囲気といった、言葉にならない魅力をうまく伝えるのにまったく自信がないんですが、一緒にいて楽しい人なら分かります。いい意味でミーハーな人。常にマイブームがある人が好きですね。こちらにさっぱり興味がなくても、熱く自分の好きなものの話をする人っているじゃないですか。そういう人は一緒にいて楽しいです。

読者からの質問「どんな本を読んでいる?」

●たくさん本を読まれている印象ですが、読むのははやいのですか? 最近はどんな本を読みましたか。(40代男性)

柚木 読書は時間がかかるほうです。私、集中力がなくて、時間を忘れて読みふけるということがないので。最近は水村美苗さんが好きです。今は『母の遺産 新聞小説』(2013年刊/のち中公文庫)を読んでいます。水村さんは『本格小説』(2002年刊/のち新潮文庫)で『嵐が丘』を日本でやるんだったらどこか、ということに解答を出されていますよね。そういう、古典をアップデートしたらどうなるかを考えるのが面白いなあと思っていて。私、谷崎潤一郎の『細雪』(新潮文庫、中公文庫)を現代でやったらどんなかなと想像していて。神戸を舞台にして。次女は『VERY』の読者モデルだと思うし、三女の雪子はあの頃は家事手伝いだけれど今ならお父さんの株を売り買いしているくらいはやっているだろうし、末っ子は日本人形を作っていたけれど、今ならお嬢さん芸の延長でネイルアートをやっているだろうな、とか。

 この頃は確定申告で遺産に関する小説ばかり読んでいたんです。でもディケンズの『大いなる遺産』(山西英一訳、新潮文庫)は、面白い部分もいっぱいあったけれども、読み始めてすぐ遺産の贈り主がわかっちゃうからそこばかり気になって(笑)。イギリスって階級社会で、階級間の移動が許されていないから、そんなにさくさくサクセスできないんですよね。当時の法制度での遺産のやりとりがざっくりしていて、これ、弁護士じゃなくても私でもできるんじゃ?って思ってしまって。

『モンテ・クリスト伯』(アレクサンドル・デュマ著、山内義雄訳、岩波文庫)も読みました。すごく面白く読み進んでいたのに、イタリアのパートの「タメ」が本当に長いじゃないですか。早く、モンテ・クリストが活躍しないかなって気になって気になって。やっぱり、リベンジが気になって早く読みたいんですよね。それから山崎豊子さんの『女系家族』(新潮文庫)を読んで、その後で『母の遺産』を読んだのかな。

 それと、この間、これは私にとって最高の誉なんですが、新訳の『風と共に去りぬ』(ミッチェル著、鴻巣友季子訳、新潮文庫、現在第4巻まで刊行、全5巻)の帯に推薦文を書かせてもらったんです。もともと大好きだったんですが、新訳もすごく面白くて! 新訳はやっぱりスカーレットのメンタリティが完全にイケイケのギャルだったってことがはっきりと分かるんです。完全にメラニーのことをダサイって言っているし。そうするとメラニーの繊細さも引き立つし、レット・バトラーがますます、もう……! 新訳でキャラクターの魅力が深まりましたね。最後の「明日は明日の風が吹く」の新訳も素晴らしいんですよ。『嵐が丘』(ブロンテ著、鴻巣友李子訳、新潮文庫)も、苦手だったのに鴻巣さんの新訳で読んだら面白くて、訳によって変わるんだなって思ったんです。古典名作の魅力を再発見させてくれる鴻巣さんには、どんどん翻訳してほしいです。

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