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河原塚 英信
2017/03/31

冷蔵庫に話しかければAmazonに注文もしてくれる

妻が僕をリモコンがわりに使うので、進化中の音声認識について考えてみた

 最近は音声認識で操作できるテレビが多い。何も去年今年に始まった話ではない。パナソニックのビエラで言えば、2013年頃から音声操作できるようになっていた。「チャンネルを1にして」とか「ボリュームを34にして」くらいは単純だけれど、今では「森友学園を録画番組から検索して」と、リモコンのマイクに向かって話しかけると、ニュースなどの関連番組がリストアップされる。

 AppleのHomeKitに対応するデロンギのヒーターやフィリップスの電球Hue(ヒュー)も、iPhoneに「Siri、ヒーターをオンにして」「25度に設定して」「ヒューを点灯させて」と話しかければ、部屋が温まったり明るくなったりする。

 そんな話をすると、たいていの人は「そんなの、それぞれの電源ボタンを押す方が早くない?」と言う。そう思うのは、至極もっともな話で、今はそういう単純な操作にしか対応していない。でも、こうした音声操作で、徐々に複雑な操作ができるようになるはずだ。

 家電製品はどんどん多機能化していて、最新の製品を買っても、全ての機能を使いこなせている人はそうそういないだろう。例えば、我が家のテレビには、Apple TVやKindle Fire TV Stickなどが取り付けてあって、YouTubeやAmazon Driveにアップロードした家族の写真や動画を見ることができる。でも、使い方を知っているのは僕だけだ。

義父も「いやぁ~、オレにはわかんねぇよ、難しすぎて」

 父母や親戚が遊びに来た時には、バカ親よろしく、息子の写真や動画をテレビの大画面に映して見せてあげる(というか無理やり見せている)。すると、「今は、こんなことができるんだねぇ」と、一同感激。

 でも実は、そう言って感心している父母、叔父叔母、祖母の家にも、同じようなことができるテレビやレコーダーが置いてあるのだ。義父にそう言っても、「いやぁ〜、オレにはわかんねぇよ、そういうのは難しすぎて」と取りつくしまもない。

 うちの妻もそうで、父母や祖母が遊びに来た時には、息子の写真や動画をテレビで見せたがる。でもいっこうに、テレビに映す操作を覚えようとはしない。彼女の場合は、台所からお茶を淹れながら、リビングにいる僕に向かって「あのさぁ、この前、長野に行った時の写真をテレビで見せてあげてよ」と声を張り上げるだけでいいからだ。

 妻にとっての僕のようなリモコンが欲しいと、多くの女性……に限らず、キカイ操作が苦手な幼児や高齢者が思うだろう。2歳の息子ですら、「トーマス!」とiPhoneのSiriに向かって話しかけているのだ。テレビが音声操作できたら、「トーマス見せて!」と、叫びまくりそうだし、彼が僕に言うように「トーマスのぉ……デイジーが出るやつみせて」と、テレビにちょっと複雑なお願いをし始めるはずだ。

 Googleだって、音声を聞き取りさえできればそのくらいはYouTubeから見つけ出してくれる。試しに「トーマスのぉ……デイジーがでるやつみせて」と息子の口調を真似てみると、結果はいまひとつ。でも、「トーマス デイジー みせて」とオーダーするとサムソンに関連するサイトを見つけ出してくれる。

 要は機械が、どれだけ性能の高いマイクを備え、人それぞれ違う声のトーンなどを聞き分けられ、前後の単語を勘案しつつ、文章全体の意図を把握できるかが重要なのだろう。

「アレクサ、トイレットペーパー買っておいて」で発注

 そんな「人間リモコン状態」の僕が気になっているのが、Amazon Echoやそのコンパクト版のEcho Dotである。まだ日本では発売されていないのに、ネットなどを中心に話題になっている。これの何が注目されているかと言えば、搭載されたAmazonの音声認識サービス「Alexa(アレクサ)」だ。単に音声認識するだけでなく、人と家電製品との媒体となってくれるところがまったく新しいところである。

Amazon Echo

 Amazon Echoは人工知能であり、音声認識サービスでもあるアレクサに対応したAmazonのBluetoothスピーカーだ。7つのマイクを搭載し、どこから、そしてどれくらい遠くから発声されたのかなどを把握しながら、音声認識する。「アレクサ、お気に入りのプレイリストを再生して」と声を掛ければ、音楽が再生されるし、「アレクサ、トイレットペーパーを買って」と言えば、Amazonで発注しておいてくれる。

米国でバカ受け。しかし思わぬ誤発注トラブルも

 これが2014年に発売されると米国でバカ受け。ちなみに値段は180ドル(約2万1000円)。アレクサがテレビニュースのキャスターの声を注文と勘違いしてドールハウスが大量に誤発注されるなどのトラブルもあったが、去年のクリスマス商戦で年が明けても品切れ状態は続くくらいの人気だ。ちなみに日本での発売は未定である。アレクサもApple HomeKitと同様に、アレクサ対応の家電製品で揃えれば「アレクサ、エアコンを消して」「ヒーターを28度に設定して」も可能である。

 既に700社が、アレクサに対応したAV機器や生活家電などを発表。韓国のLGエレクトロニクスやサムスンは冷蔵庫を、フォードはクルマを構想している。日本のオンキヨー&パイオニアイノベーションズも、Webカメラや湿度・温度センサーを内蔵したスマートスピーカーを、発売時期などは未定ながら発表済みだ。

LGのスマート冷蔵庫「Smart InstaView」

 LGが今年1月に発表したのがスマート冷蔵庫「Smart InstaView」。アレクサに対応し、天気やニュースも聞けるし、冷蔵庫に話しかけるだけでAmazonに足りない食材を発注できる。前面に搭載された29インチのディスプレイを2回ノックすれば、ドアを開けなくても内蔵カメラで冷蔵庫の中身が映し出される。スマホ経由でも冷蔵庫の中身が確認できるので、出先で「あの食材、まだあったかな?」と思ったらその場でチェックして帰り道で買ってくることも可能だ。また、作りたいメニューがあれば、冷蔵庫に話しかければレシピも検索してディスプレイに表示してくれるという。

台所でもベッドでも…「各部屋に一つ」の時代に?

 今や家にWi-Fi対応機器が3つや4つあると言われても、驚く人はいない。同じように、近い将来、アレクサ対応機器をいくつも所有するようになるかもしれない。各部屋にひとつ対応機器があれば、リビングでくつろいでいても、台所で料理をしていても、ベッドで寝転がっていても、アレクサに声を掛けられる。

 急速にユーザーが増えていきそうなアレクサ対応のデバイス。これまではPCやAV機器、スマートフォンやタブレットなどを使いこなす人は限られていた。でも、音声認識が進化すれば、幼児も高齢者も、最新デバイスを使いこなせるようになるはず。これから、そんな多くの人がデジタル機器を使うようになることで、考えもしなかったようなアイデアが生まれるかもしれない。Amazon Echoのようなデバイスは、タッチパネルをインターフェイスとするスマートフォンを駆逐していくとも言われている。

 そこまで成長するのかどうかは未知数だが、少なくとも妻が僕をリモコン代わりに使うことはなくなりそうだ。「リモコンどこだっけ?」と家のあちこちを探す光景も懐かしい過去のものとなるかもしれない。