昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2016/06/18

時の名前に身をまかせ
――暮れ六つって何時? 西洋時法に大混乱

genre : エンタメ, 読書

 先日、6月10日の時の記念日にちなんで、ラジオで「時間や時計にまつわる小説」を3冊紹介した。取り上げたのは、ケン・グリムウッドのタイムスリップ小説『リプレイ』(杉山高之訳・新潮文庫)と、綾辻行人の本格ミステリ『時計館の殺人』(講談社文庫)。そして浅田次郎の短編「遠い砲音」(中公文庫『五郎治殿御始末』所収)だ。

「遠い砲音」の舞台は明治6年。太陽暦導入に伴い、時間の呼び方も「明け六つ」や「亥の刻」などから24時間制に変わった年だが、元武士で現在は近衛兵として勤務する主人公はこれにまったく馴染めない。つい、上司に「遅くとも暮れ六つには戻りますゆえ」と言ってしまい、

「かつての暮れ六つとは、日の入りより三十六ミニウトの後じゃ。只今の冬の時節なればそれはおおむね五時ということになるが、夏であればずっと遅くなる。そちも早う西洋定時法に習熟いたさねば、軍務に支障をきたそうぞ」

 と怒られる始末。反省してみせるものの、心の中は不満だらけだ。一日が明け六つの鐘で始まり、暮れ六つで終わることの何が悪い、夏の一日が長く冬の一日が短いのは道理じゃないか!

 説明しよう(ヤッターマン風に)。江戸時代の時刻制度「不定時法」では、日の出の約30分前を「明け六つ」、日没の約30分後を「暮れ六つ」とし、その間を6等分して「一刻(いっとき)」とした。なので、昼夜の長さがほぼ等しい春や秋は、一刻=2時間。ところが、たとえば夏至の時期になると、昼の一刻はもっと長く、夜の一刻は短くなるわけだ。

 じゃあ、日の出が六つなら、そこから先は七つ、八つか? それが違うから面倒臭い。明け六つのあとは一刻(2時間)ごとに、朝五つ、朝四つと数字が減っていく。それが昼の12時でいきなり昼九つになり、そこからまた昼八つ、夕七つと減って、暮れ六つだ。そしてまた宵五つ、夜四つ、夜中の0時で夜九つ。ややこしいわっ!

リプレイ (新潮文庫)

ケン・グリムウッド(著),杉山 高之(翻訳)

新潮社
1990年7月27日 発売

購入する

時計館の殺人<新装改訂版>(上) (講談社文庫)

綾辻 行人(著)

講談社
2012年6月15日 発売

購入する

時計館の殺人<新装改訂版>(下) (講談社文庫)

綾辻 行人(著)

講談社
2012年6月15日 発売

購入する

五郎治殿御始末 (中公文庫) 文庫

浅田 次郎 (著)

中央公論新社
2014年05月23日 発売

購入する

【次ページ】なぜ明け六つの次が五つなのか?

はてなブックマークに追加