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アヒル口、涙袋、みんなキライ。僕の美的感覚とズレている──高須克弥院長インタビュー

高須院長に美容整形のことをマジメに聞いてみた。<第1回>

2017/04/16
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美容外科のナゾ──なぜ同じ名前の二つの学会が犬猿の仲なのか?

鳥集 一般の人はあまり知らないと思うのですが、美容外科業界には形成外科(先天異常や大けが、がんの手術などによって損なわれた形態や機能を再建する外科)系のグループと、開業医系のグループの二つの流派があります。形成外科のトレーニングを受けた医師のほうが腕は確かだという話も聞きます。

高須 もちろん切ったり縫ったり細かいことをするから、手術は上手いと思いますよ。でも形成外科医っていうのは本来、損なわれた身体を治したり、先天異常で生まれた人の形態や機能を改善するのが仕事。リハビリセンターみたいなものなんですよ。美容外科というのは全く違ってて、はじめから美しい人がもっと美人になりたい、年寄りの人が若くなりたいといって受ける贅沢な医学。高級スポーツジムと同じなの。この二つの階層は正反対。貴族と奴隷くらい違うんです。形成外科の先生は傷跡が残らないように縫うのは上手ですよ。でも、隆鼻術をやるのは鼻の中からやるから傷なんて関係ない。シワ取りだって髪の毛で隠れるところを縫うしね。それと美容整形外科医として優秀かどうかは別問題です。

「もともと整形外科はドロップアウトした人の吹き溜まりだったの」 ©三宅史郎/文藝春秋

鳥集 美容外科には、「日本美容外科学会」という同じ名前の学会が二つ存在します。開業医系の学会と、形成外科医系の学会に分かれていて、高須院長が統一化にむけて動いた時期もあると聞きました。しかし、現在も分裂したままです。

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高須 美容外科はもともと、民間の医療なんです。二重まぶたの手術をやる人は眼科で食っていけなくなった人、隆鼻術は耳鼻科で食っていけなくなった人、あとは産婦人科で失敗しちゃって、膣を狭くする手術の専門になった人や、包茎をなおしたりおちんちんを大きくする人とか、ドロップアウトした人たちの吹き溜まりだったの。

 一方で、形成外科は先天異常や交通事故、火傷で苦しんでいる人を救うために、まったく別のルートで独立して発展してきた。ところが形成外科医は、大学病院や大病院なら食っていけるけど、開業したら食っていけない。だから、後から美容外科に手を出して、食い込んできたんです。

 もとからの美容外科の開業医たちは、自分たちのことを医者だとは思ってなくて、サービス業だと思っていたの。処女膜を再生したいとか、鼻を高くしたいとか、美人になって嫁に行きたいとか、後ろめたいけど必要悪だから、と思ってやってきたわけ。だからペーパー(論文)なんて書かないし、学会で発表したりすることもなかった。ところが、美容外科が標榜科目になって、今までやってきた美容外科の医者たちと、新規参入しようとする形成外科医との間で戦争が起きちゃった。だからこの二つは長年犬猿の仲なんです。

鳥集 高須院長は開業医系の代表のようなイメージですが…。

高須 僕は、自分の祖母も困っている女の人に見よう見まねで隆鼻術をしてあげていたような400年前からの医者の家系だし、開業医系に属していたわけだけど、実は生粋の形成外科医なんですよ。整形外科の中に形成外科部門があった頃からのね。

 だから僕が仲介役になって橋渡しして、両方を合併しようと思ったんだけど、やっぱりいろいろ利害関係があって、無理だった。一緒になると都合の悪い医者がたくさんいるのよ。形成外科系は、学会が一緒になったら、形成外科の専門医じゃないと美容外科をやっちゃいけないっていう縛りをつけようとしたの。でも開業医たちにも、「俺は学会では発表してないし、ペーパーはひとつも書いてないけど、患者はお前の100倍くるぞ」ってプライドがあるしね。お互い偉そうにしてるんだよ。