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赤坂太郎
2017/04/11

森友、小池、共謀罪 3つの難問に直面する安倍が打つ手は何か

「籠池劇場」に翻弄される官邸の舞台裏

「事実は小説よりも奇なり。私が申し上げていることが正しゅうございます」

 3月23日、国会。午前は参院、午後には衆院で計約4時間半に及んだ学校法人「森友学園」理事長・籠池泰典の証人喚問は、まさに「籠池劇場」だった。NHKの平均視聴率は、関東地区で16.1%、関西地区が17.7%。民放も競うように中継した。同時間に行われていたワールド・ベースボール・クラシック決勝の視聴率が2.9%だったのと比べると、その関心の高さがうかがえる。

「金子(きんす)」「神風」など、独特の言い回しをちりばめながら、2015年9月5日に首相・安倍晋三の妻昭恵から100万円を受け取ったこと、昭恵付きの職員・谷査恵子から、財務省への照会結果を知らせるファクスを受け取ったことなどを生々しく語る籠池の姿を、日本中が食い入るように見つめた。

閣僚Sは誰だ

「これまで法相の金田勝年や防衛相の稲田朋美が集中砲火を浴びていたが、最近は私にお鉢が回った。2人にはいい休養だ」

 3月初旬まで安倍は、国会で再三質問を受けても、宴席でこんな軽口をたたく余裕があった。森友問題についての受け止めは〈大阪で少し不自然な国有地売買があり、籠池という個性的な人物を面白がってマスコミが騒いでいる〉という程度だったようだ。状況が一変したのは16日。籠池が「安倍夫人からの100万円」を暴露した時だ。

 予兆はあった。前日の15日、「閣僚S」が森友側とカネの授受があるという情報が流れたのだ。イニシャルSの閣僚は官房長官の菅義偉、厚労相の塩崎恭久、経産相の世耕弘成の主要閣僚3人。事実なら政権には大ダメージだ。ところが翌日、出てきたのは主要閣僚どころか首相にからむ話だった。Sとは「シンゾウ」だった……。

「全くとんでもない話だ」

「あんな嘘を許してはいけない」

 同日夜、首相公邸に参院国対幹部を招いて開いた夕食会。安倍は甲高い声で、まくしたてた。そして安倍自身が籠池の証人喚問を主張した。その時は菅や参院自民党国対委員長代行の石井準一らが「まず参考人でやって、それでも問題があれば喚問でいい」と説得。安倍も冷静さを取り戻し「現場に任せる」と矛を収めた。ところが今度は衆院の自民党国対委員長・竹下亘らから「衆院側は喚問の方向だ」と連絡が入り、石井らは食事にはほとんど手をつけずに国会に戻っていった。

©橋本篤/文藝春秋

 喚問での自民党側の戦略は明確だった。籠池は、経歴詐称疑惑があるなど、不確かな言動が多い。そこを突き、あわよくば偽証を引き出して告発。そこまでいかなくても籠池の発言が信用できないと世間に示せれば十分だった。

 喚問の日、安倍は公邸から午前9時すぎに官邸に移動。籠池が証言している間は、ほとんど来客も受けずに見守った。安倍は、苛立っているように見えた。自分に陶酔するような籠池の話し方も不愉快だったが、それ以上に自民党議員の追及の甘さが不満だった。参院で質問に立った西田昌司は野党時代に民主党政権(当時)に切り込んだ論客。衆院の葉梨康弘は元警察官僚。最適任者を並べたはずだったが、与党議員は攻めの質問に慣れていない。明確に偽証となる証言を引き出すことはできず、幕引きには程遠かった。

 特に谷からのファクスが明らかになったのは痛かった。安倍は国会で「私も妻も、認可や払い下げに関係ない。関係していたなら、総理大臣も国会議員も辞める」とまで断言した。ファクスは「関係ない」を揺るがすものだ。

 首相官邸は、内容に後ろ暗いところはないと強調するため、即座にファクスのコピーを公表した。ところが谷の携帯電話、メールアドレス、森友側のファクス番号もそのまま公開してしまった。程なく一部を黒塗りして再公表したが、周到な危機対応を誇る安倍官邸としては珍しい不手際だった。

 そもそも首相夫人の位置づけはあいまいだ。特に昭恵のような“自由人”だと、公私の判断が難しい場面が増える。官房副長官・杉田和博らは、各国の首脳夫人の位置づけを子細に調べたが、明確なガイドラインは見つからない。ファーストレディーの位置づけは、どの国もあいまいなのだ。だからこそ「アッキード疑惑」は対応が難しい。

 24日の自民党の副幹事長会議では「籠池は大阪府知事・松井一郎を一番憎いと言っている。大阪の問題にして国政とは切り離すべきだ」という意見が相次ぎ、大阪選出議員が府議会に調査特別委員会(百条委)の設置を促すことを申し合わせた。「国政問題でない」とすることは、籠池を攻めて偽証に追い込もうという当初方針からの後退に他ならない。この日、大阪府議会では、本会議で自民党提出の百条委の設置動議の採決が行われた。だが民進、共産は賛成したものの、大阪維新の会と公明党が「時期尚早」と反対して否決されてしまった。

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