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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/04/18

上海人もビックリの「ゲテモノ喰い」の店が歌舞伎町に!

イラスト 小幡彩貴

 巨大ムカデの唐揚げ、カエルの裸煮、豚の脳味噌炒め、牛の筋とペニス、臭豆腐、蛇肉の唐揚げ……。

 写真付きのメニューを見るだけで頭がくらくらする。ここは一体、現代日本なのか? 新宿歌舞伎町の狭い路地奥にある「上海小吃(シャオツー)」。店内の表示は中国語のみ、年齢不詳なチャイナドレスの美人店長が上海語でスタッフに何かまくしたてている。異世界にトリップしてしまったみたいだ。

 実はこの店、以前何度か来たことがあったが、珍味類を異常なほど充実させていることを最近知り、担当編集者のY氏と訪ねてみたのだ。

「こういう料理、どんなお客さんが食べるんです?」

 気を取り直して店長に訊くと「ムカデとペニスは、女ほしい人、食べるよ!」と直球の答え。「ホストなんかもよく来て食べるね」精力増進や滋養強壮に効くという。

「上海ではみんな普通に食べてるよ」というから驚きである。

 何を注文したらいいか迷っていると、店長が「虫の盛り合わせ、作ってあげるよ」。そんな盛り合わせは初耳だが、ありがたい。ただ調理の様子を見たいというと、厨房は取材不可だという。せめて調理する前の状態が見たいと駄々をこねたら「社長に訊いてみる」とのこと。どうも難しいらしい。

 とりあえず、それは諦め、他にも牛のペニスや蛇の唐揚げなど、これぞと思うものを一般客として注文。

 しばらくして、虫の盛り合わせが登場した。

「うわっ!」私たちは思わず、声にならない声をもらした。バッタ、セミの幼虫、巨大ムカデ、タランチュラ、サソリ。気持ち悪いなんてもんじゃない。

「これ、喰うのか……」

 三十年くらい世界各地で様々なゲテモノ類を食べてきた私だが、食卓に出されてこんなにたじろいだことはなかった。どうしてだろう? 日本だからなのか、きれいな白い皿に盛られているせいなのか。幼虫やムカデのテラテラ脂ぎったツヤ、タランチュラの繊毛の生えた足やバッタの羽根のリアルな質感がハンパじゃないのだ。

 ものすごく気が進まなかったが、出されたものは絶対に食べるのが私の流儀。まずハードルの低そうなバッタから。口に入れるとボソボソして、でもぐちゃぐちゃと湿った感じもあり、まさにバッタの死骸という印象。味つけは大変薄い。でも、まあこんなものだろうか。

「中華には珍しく、素材感がありますね」と、顔をしかめながら食べているYさんに言った。

 続いてセミの幼虫。こちらは外は殻が固いビニールのようで、中は白くてぐじゅぐじゅしており、タンパク質が生々しい。Yさんは泣きそうな顔をしていつまでも口の中でくちゃくちゃ噛んでいる。飲み込めないようだ。

 しかし、と首をひねる。どう考えても味が薄すぎる。塩か唐辛子が足りないんじゃないか。隣室にいる店長にそう言うと、彼女は大声をあげた。

「それ、料理してないよ!」

「え、じゃ、これ生?!」

「そうよ、見たらわかるでしょ! そんなの食べたら死んじゃうよ!!」

 何てこった。生々しいとか素材感があるも何も、生の素材だったのだ。上海人もびっくりだろう。考えてみれば、私たちが調理前の状態を見たいと頼んでいたのに、すっかり忘れていた。Yさんがウエ~と言いながら、口のものを小皿に吐き出した。

 呆然としている私たちを見て店長が大笑いした。

「あんたたち、今日は歌舞伎町から帰れないね!!」

 生虫、滋養強壮に効き過ぎるのだろうか……。

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