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連載歴史・時代小説の歩き方

われがそなたでそなたがわれで(後編)――平安のクズ男と女の悩み

2015/11/21

genre : エンタメ, 読書

 時は平安、権大納言家。男らしく育った姫君が男として宮中に出仕し、女性と結婚しちゃう。女らしく育った若君が女として宮中に上がり、女東宮を押し倒しちゃう。さあどうなる? というところまでが前回のお話でした。「とりかへばや物語」のことね。

 ここに登場するのが宰相中将というプレイボーイ。見てくれもよけりゃ家柄もいい、狙った女は必ず落とすというヤツでして。もともとは権大納言家の姫(ホントは若君)にアプローチしてたんだけど、これがなかなかなびかない(当たり前だ、男なんだから)もんで、次に目をつけたのが何と、その権大納言家の若君(ホントは姫)の妻・四の姫だった。

 あ、ここで注釈。この時点では実は権大納言家じゃなくてお父さんは出世して関白左大臣になってます。若君(ホントは姫)も中納言になってます。これが原典のめんどくさいところで、固有名詞がまったく出てこないのよ役職で呼ぶのよ。お父さんも子どもたちもいつの間にか出世してるもんだから、呼び名がどんどん変わる。おまえら島耕作か。

 要は主要人物がずっと「主任」とか「課長」とかって表記されるようなもんで、それが次のページでいきなり「部長」になったりしても当時の読者はわかってたってえのがすごいんだが、今の読者にはチト味気ない。だから氷室冴子の『ざ・ちぇんじ!』(集英社コバルト文庫)も田辺聖子『とりかえばや物語』(文春文庫)でも、登場人物に名前を与えてます。これがどっちも雅な名前で実によろしい。どんな名前かは読んでみてね。

 閑話休題。プレイボーイの宰相中将は、中納言(ホントは姫)の妻である四の姫のもとに忍んで、切々と想いを訴えるわけね。ところがこいつ、四の姫を落とすまでは熱心だったのに、想いを遂げたらすぐに飽きちゃうのだ。おいコラ、おまえちょっとそこに座れ! 成敗してくれるわ!

とりかえばや物語 (文春文庫 た 3-51)

田辺 聖子(著)

文藝春秋
2015年10月9日 発売

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