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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2015/02/21

三国な戦士のテーゼ(2)
――蒼天よ神話になれ

genre : エンタメ, 読書

前回のあらすじ:いろんな小説が出ている「三国志」の中から、吉川英治・北方謙三・宮城谷昌光・陳舜臣の作品をテキストに、どんな違いがあるのか第一巻だけを読み比べてみた。まずは基本の吉川版と北方版で劉備のキャラの違いに着目。かたや親孝行な劉備、こなたハードボイルドな劉備。では宮城谷版の劉備はというと……

 まさか劉備が第一巻に出てこないとはね! なんという引っかけか。大河ドラマ「花燃ゆ」の第4回で、オープニングのキャストに井川遥の名前があったのに出演は手だけだったってのを超えるフェイントだ。そんなことはともかく。宮城谷昌光『三国志 第一巻』(文春文庫)は楊震という人物の話で始まる。ついで出てきたのが曹騰。誰? と思っていたら次の文でひっくり返った。

「かれの孫こそ、戦乱の世に雄張した曹操である」

 曹操のおじいちゃん!? 話、そこから!? 曹操ってのは劉備と並ぶ三国志の主役級人物なんだが、まさかそのおじいちゃんの話から始まるとは。そりゃ劉備なんぞまだ影も形もないわ出てくるわけないわ。

 読みながら思い出したのは、橋本治の『双調平家物語』(中公文庫)。あれも一巻はまるまる中国の話で、二巻は蘇我氏だの大化の改新だので、平家物語なのに平家がぜんぜん出てこなかったんだよなー。でも平家を知るには藤原氏の祖を知らねばならないし、平家物語に逆賊や佞臣の例として列挙されている中国の人物を知らねば当時の思想もわからないわけだ。だから橋本治はそこから始めた。

 宮城谷三国志も同じなんだと思うの。歴史に忠実であるためには必要な情報だと。後漢王朝とその時代を知ることから三国志は始まるという観点で、キャラクターではなく歴史それ自体を主役に据えた観がある。

三国志〈第1巻〉(文春文庫) 文庫

宮城谷 昌光 (著)

文藝春秋
2008年10月10日発売

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