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奥野 修司
2017/04/24

変わりゆく団地とURの未来――ひばりが丘団地「夢の跡」#3

50年後のずばり東京――建て替えても高齢化は止まらない

#2より続く)

活気ある団地を訪ねて

 鶴川団地に足を運んだ。小田急線で新宿から30分強で鶴川駅に着く。駅からはバスで約10分だが、やはり住人は高齢者が多いらしく、団地のバス停で降りる客は老人パスを使う人ばかりだった。

 まずは団地をひと巡りする。ここは平坦なひばりが丘団地とは正反対で坂が多く、道路のほとんどが曲線を描いている。高齢者はかなり行動を制限されそうだ。

 だが大きな樹木が生え、それに建物が5階建てのせいか空がスコンと抜けて開放感がある。どことなく見飽きない景色だ。世帯数でいえばひばりが丘団地と遜色がなかったのに、地形や建物の配置のせいか、こぢんまりとまとまった印象になる。

 住居棟が並ぶ一画から道路を横断する陸橋を渡って、広場がある商店街へと向かった。

 鶴川の広場は長径約90メートルの菱形をしており、ひと目で全体が見渡せる絶妙なサイズと形状だ。広場の周囲にスーパーをはじめ、酒屋、蕎麦屋、ケーキ店など個人商店が軒を連ね、郵便局や市立図書館もある。広場にはちょっとした遊具もあり、幼い子供を連れた母親や、小さな子供たちが遊んでいた。まさしく団地の顔と言え、ひばりが丘には見られなかった空間だ。

鶴川団地の顔である広場 ©文藝春秋

団地外の人も集まる広場

 この広場に面したケーキ店「ル・ソレイユ」の日下幸三さん(47)に話を聞いてみた。

「以前は洋菓子メーカーに勤務して海外店のプロデュースを担当していました。自分のお店を持ちたいと思ったとき、他にも候補地はありましたが、鶴川は環境がよく何よりこの広場に惹かれた。多くの子供たちが遊ぶ雰囲気も含めて、ちょっとヨーロッパ的な空間ですよね。広場に面している分、閉鎖的でもあるので最初は団地のお客さんが中心でしたが、今は口コミで外のお客さんも増えています。この広場だと子連れのお客さんが買い物をしている間、安心して子供を遊ばせておけます。必ず誰か大人が見ていますからね」

 広場を中心に魅力的な店があるから団地内外の人々が自然に集まって来る。そして賑わいが生まれることで魅力が増し、さらに多くの人が集まってくる。街に中心があるということは、こういうことなのだろう。

URに頼らない商店街

 千葉さんから、この団地のキーマンだと聞いていた内装店のご主人を訪ねた。富岡秀行さん(73)。名刺を交換したら、鶴川団地自治会の事務局長と書かれていた。富岡さんは「自治会の仕事から引退したいのになかなかできなくて」と苦笑する。

――広場は子供で賑やかですね。

「でも団地は高齢者ばかりですよ。古い割に家賃が高いので26%が空室。それでも活気があるのは、夏祭りなどこの広場でのイベントを大切にしているからかもしれない。あと他の団地の商店街って空き店舗が多いのに、ここはほとんどないんです。今は1店舗空いていますが、すぐに誰か見つかる。なぜ? URに頼むのではなく、私たちが自分で埋めているからです」

――埋める? 富岡さんたち商店街が入居者を探すのですか。

「そうです。ネットで募集したり、問屋や不動産屋に聞いたり、いろいろです。そういう努力をしてる。商店街のアーケードもURに頼んでもだめだから、自分たちで市から補助金をもらって整備したし、広場の遊具も自分たちで置きました。コインパーキングの設置にも反対されたけど強引につけちゃった(笑)。今では車で買い物に来る人も多いので、成功だったんじゃないかな」

――私もそのひとりです。

「広場に桜の木を植えることにもURは反対でしたが、商店街に桜がないと寂しいからって植えちゃった。もちろんすべてあとで許可をもらいましたよ。URはお役所だから、すぐ動かないし思い通りにならない。URに過度に依存しないことが鶴川団地の元気の素だね!」

――この団地も建て替えるそうですが、広場はどうなるのですか。

「それが大問題なんだ。URと商店街と自治会で話し合っていて、16階建てにするという話もありますが、まだURから具体的な提案はありません。私としては、どうせ高層化するなら1階と2階を商店街の店舗にしたい。住居棟のある高台と新しい建物をつないでエレベーターで降りられるようにしたら、高齢者も買い物に来てくれるんだけどねえ」

 すると、隣で聞いていた奥さんが「そんなに理想が高くてもねえ」と苦笑いした。富岡さんは「理想は高い方がいいんだ」と反論する。

「でもURは譲歩なんかしないでしょ」(奥さん)

「鶴川を団地建て替えのモデル地域にすればいいんだ」(富岡さん)

 奥さんは現実を語り、ご主人は真剣に夢を語っていた。私は心の中で富岡さんに拍手を送った。団地が活力を生み出すためには、広場のように中心となる空間も必要だ。だが富岡さんのように団地の将来を真剣に考え、そして行動する人物がいてこそ活気が生まれるのだろう。

住みやすいが「狭すぎる」

 鶴川団地も建て替えで団地の顔といえる広場が取り壊される予定だ。若い住民はどう考えているのか。

 団地の横にある公園で子供たちに遊び場を提供するボランティアをする稲葉美加さん(38)に話を聞いた。稲葉さんは小5の男の子と小2の女の子をもち、物言いがはっきりしていて頼もしいお母さんだ。

「広場ですか? 建て替えでなくなると聞いてますが、とんでもない!うちの子も幼稚園までは本当によくあそこで遊んでいました。それに大人の憩いの場でもあるんです。隣のテニスコートで汗を流した人が、練習後によく広場のベンチでコロッケ片手にビール飲んでますよ(笑)。

 鶴川は住みやすいです。学校も近いし、子どもが遊ぶ公園も多い。商店街に行くと顔見知りばかりで安心です。ただ、団地の部屋が狭すぎます! 何とかしてほしい。家賃が高くなってもいいから壁を壊して2部屋を使いたいくらい(笑)。真剣な悩みだから市を通してURに要望の手紙を書いたこともあるんです。私の周りだけでも子どもが小学校に上がる前に、5家族が部屋が狭いからという理由で団地から出ていきましたから」

 かつて憧れだった40から50平米の2DKは、現代の子育て世代の生活には「狭すぎる」のだ。

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