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11人目の書店員に聞く〈書店の謎〉紀伊國屋書店新宿本店に潜入した

2014/10/11

genre : エンタメ, 読書

note

オススメ本は縁で決まる、合理的判断を超えて。

 新刊を並べたらそれで終わりではない。この本は盛り上げたい、オススメしたいものは、いろいろ売り場を工夫する。この日は『居酒屋ぼったくり2』の出版社アルファポリスの営業の方が来店し、新刊の飾り付けをしていた。造花の紅葉と栗、のれんを配置して、秋の季節感を演出、おいしそうな、楽しげな売り場に仕上がった。本は、生活必需品ではない。買うには何か勢いのようなものが必要なのではと、常々思っているが、売り場の演出やPOPは、悩める読者の背中を押すためにも有効なのではないか。

飾り付け。素材は、出版社の方が持ち込んだ、秋の風物。
完成。なんだかおいしそう。

 既刊本の売れ行き、著者の実績、出版社さんのオススメ、話題や世相、流行……それぞれの本屋さんでのオススメ本は、いろいろな要素を総合的に判断して決まっていく。その判断は、数字に裏打ちされ、合理的で、かつ、日々の業務に支えられた熟練の技である。それでも今井さんは、最後は縁だという。本の発行前に校正刷り(ゲラ)を読む機会が多く、月に15冊くらいは読む(なかなかプライベートな読書の時間が取れないのが悩み)という今井さんだが、当然、毎日発行される約200冊の新刊書をチェックすることはできない。目を通すことができて、アンテナに触れたごく少数の本の中から、これはと思うものを取り上げ、仕入れ、展開して、手応えを感じることができるのは、本当に縁としか言いようがないのかもしれない。

今井麻夕美さん、『離陸』とともに。

【本の話 読者にオススメ】

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 そんな、今井麻夕美さんのオススメ本は、絲山秋子さんの『離陸』(文藝春秋)。今年度今井さんが読んだ本の中で、一番かもしれないという傑作。POPを作るところを見せていただいた。表紙の色に合わせて、最近お気に入りというマスキングテープを小さくちぎって貼り付け、アクセントとする。お菓子の空き缶に色とりどりのペンを入れているが、この作品では静かで端正な装丁の本に合わせて、黒と青のボールペンしか使わない。

 謎の多い不思議なストーリー、POPでは、どこがどう傑作なのかも説明されていない。が、抽象画を思わせる装丁とあいまって、どうにも読みたくなってくる(読みました)。本との出会いは一期一会、この日に、この場所で出会ったことに感謝したくなる素敵な本だ。

POP制作も大事な仕事。お気に入りのマスキングテープと、ペンいろいろ。
今井さん絶賛、今年度ベスト級という『離陸』。紀伊國屋書店新宿本店、2階文学売り場でぜひ。

「10人の書店員に聞く〈書店の謎〉」でも、書店員さんのオススメ本を聞いている。それぞれ個性的なオススメ、本好きの友だちが薦めてくれる本のように、本屋さんで見かけたら手にとっていただけるといいなと、本屋好きとして思う。

 ……いくつかのヒントをうかがったものの、結局あまり〈書店の謎〉は明らかにならなかった。まあ、半日いたくらいでわかるほど、簡単じゃないよね。謎が多い方が魅力的であるし、また明日もどこか本屋さんを訪ねてみよう。

紀伊國屋書店 新宿本店
住所:東京都新宿区新宿3-17-7
営業時間:10:00~21:00
URL:http://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Shinjuku-Main-Store/
Twitter:https://twitter.com/KinoShinjuku

11人目の書店員に聞く〈書店の謎〉<br />紀伊國屋書店新宿本店に潜入した

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