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大型企画
2020年「日本の姿」 各界の慧眼が見抜いた衝撃の近未来

麻生 幾
2017/05/06

イスラム国対策に特殊部隊創設――2020年「日本の姿」

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : ニュース, 社会, 政治

 東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 2020年、進化するテロの脅威に、日本の治安当局はどう立ち向かうのか。作家の麻生幾が寄稿した。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

かつて“SF”だったテロ対策が脚光を浴びている

 今でこそ新幹線テロ、ドローンによるテロの脅威が叫ばれているが、実は10年前からその対策は始まっていた。かつて自民党の政務調査会関係者から、あるリストを見せてもらったことがある。日本の治安機関が予算要求すべく示したもので、タイトルは「調査ならびに研究項目」。

〈短時間かつ多面的に、かつ非破壊的で実施可能な車両積載物に対する検査技術の開発〉、〈人混みや車両が多数走行する場所における、狙撃手の位置を早期探知するシステム開発〉、〈外部から、ビル屋内、ガレキやトンネル、また車や列車内にいるテロリストと人質を区別して攻撃し、さらにその生死を確認するための技術〉、〈施設や建物の、爆発物に対する脆弱性を判定し、追加の補強等による爆発の効果を緩和させるための技術開発〉、〈検索レーダーで捕捉した爆発物を積載した小型ヘリコプターのリモコン電波を妨害してその操作を奪い安全な場所に着陸させる〉、〈領海や水際の警備等において、遠方から、侵入者の欺瞞的な動きを探知するため、生理的な反応や人種間の差異を考慮した画像化解析技術開発〉(※一部を抜粋)

 いずれも、これまでのテロ対策では考えもしなかった、“SF的な発想”の資機材であったためか、結局、本予算要求は実現しなかった。

 そのリストが今、再び治安担当者の中で脚光を浴びている。テロリズムの脅威として全世界の治安担当者の前に登場した新たな敵「IS」が、4年後の東京でのオリンピック・パラリンピックでは治安機関にとって“最大の敵”として、政府内で現実視され緊迫度が高まっているからである。

「イスラム国」の旗を掲げる戦闘員 ©共同通信社

パリ同時多発テロの衝撃

 2014年10月、カナダの首都で発生した、国会での銃乱射テロリズム。「IS」と繋がる犯行と知らされた自民党幹部で政府関係者の1人は、その時、強い衝撃を受けた。日本は同じ事態に対応する能力があるのか、同幹部は警察とともにその検証を急ぎ行った。すぐに弱点が浮かび上がった。「SAT」という特殊部隊は局限された条件で世界最高レベルの優れた能力を発揮する。テロリストが移動しながら多方面で銃撃を行うなどの流動的な事態で瞬時に対応する部隊の必要性に迫られた。その結果、機動隊の中に、SAT隊員による訓練が施された新しい即応部隊「ERT」が誕生。テロリストとの実戦に最も近い部隊で、4年後には、より強力なカービン銃M4を配備する。

 2015年11月、警察から説明を受けた自民党幹部はさらなるショックに見舞われた。フランスの首都パリで発生した同時多発テロ。400人以上の死傷者を出した光景は、同幹部の胸に突き刺さった。中でもそのテロの“形態”に衝撃を受けた。複数の場所で同時多発的に行う銃撃テロと大量の人質をとった占拠と同時に、数カ所に及ぶ移動しながらの銃撃の連続――先進国がこれまで遭遇しなかった脅威の軍事プロ集団だった。同幹部の胸はざわめいた。同じ事態が日本で起こったならば、残念だが対応のイメージさえ浮かばない――悲愴な思いとなった。

 新たな敵へのテロ対策は政府の喫緊の任務となった。伊勢志摩サミット関連の全国での警備、さらにオバマ大統領の広島訪問警備でも、日本の治安機関は底力を発揮した。熊本地震への部隊派遣という緊急事態もあったが、体制はモノともしなかった。それを実現したのは、日本の治安機関が長年に渡って貫いてきた“歴史的な大方針”によってだった。“部隊を大量に動員しての大きな構えの警備”であり“より人員を投入しての見せる警備”――。新幹線の改札口で機動隊員が立つ姿こそ、その典型的な例だった。

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