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連載シネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/04/23

『トンネル 闇に鎖された男』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

衝撃の号泣映画!

 あなたはごく普通のおじさんで、会社からの帰り道、トンネルが崩れて車ごと埋もれてしまったとする。

 携帯電話で救助隊と話せたものの、「助けるには一週間かかる」と言われてしまう。って、こっちは五百ミリリットルのペットボトル二本とケーキしか持ってないんだよ! かなりまずい状況だよ……。

 やがてあなたは、すぐそばにべつの車が埋もれているのをみつける。運転席には、学校出たてで入社式を来週に控えた若い女性。大怪我をしていて苦しそうだ。

 さて、この人に「水をください」と頼まれたら……どれだけ分けてあげられる?

 これは、これはー、わたしなら一滴もあげられないかもと思いながら観ると、この映画はなんか泣けるのだった。

 韓国映画界のスター、ハ・ジョンウ演じるおじさんはというと、まぁまぁケチりつつも、ちゃんと分けてあげていた。善良な人だなぁ。

 ……でもその量では足りなかった!!!(ある事が起こる)

 ここでもう、こっちは衝撃の号泣!「いや、見てたよ! いま見てた! おじさん悪くない!」とパニック映画を観て文字通りパニックしている間にも、トンネルの中で外で事態は悪化。世論が「一人を助けるのに税金を使いすぎ!」と変わったり、救助隊員に犠牲者が出たり。救助隊や妻(ペ・ドゥナ)まで究極の選択を迫られて……。

 この映画を観て、わたしが考えたのは、日常を離れたこんな状況で「どれだけのことができるってんだよ!?」ということだ。おじさんは怪我人に水をすこし飲ませた。でも一滴もあげない人も、全部あげられる人もいるよなぁ。そしてその選択は、人柄だけじゃなく、思想、哲学、信仰の有無によって決まるのかも、と。

 損得じゃなく、善のためにこそ、人は大人になっても、老いても、学び、思考し続けなければいけないのか……と考えたりした……。

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INFORMATION

『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』
5月13日(土)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国順次ロードショー!
http://tunnel-movie.net/

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