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2020年「日本の姿」 各界の慧眼が見抜いた衝撃の近未来

名和 利男
2017/04/30

サイバー攻撃が交通網を襲う――2020年「日本の姿」

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : ニュース, 社会, テクノロジー

 東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 今回は、日本を代表するサイバーセキュリティ技術者の名和利男氏が、3年後のサイバー攻撃の脅威を分析する。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

世界で日常的に広がるサイバー攻撃の脅威

 サイバー攻撃は、既に日常茶飯事に起こっている。世界に目を向けても、昨年4月には「イスラム国」(IS)のハッカーがフランスのテレビ局をハッキングし、衛星放送11チャンネルを停止に追い込んだ。昨年末には、ウクライナの電力供給会社がサイバー攻撃を受け、数時間停電して140万人の市民生活に影響を及ぼしている。今年に入ってからも、ドイツの原子力発電所の核燃料棒を操作しているパソコンにマルウェア(悪意のあるソフトウェア)の感染が見つかっている。原子力発電所の運行に影響はなかったものの、停電や原子炉の損傷を招いていたら、深刻な被害が出ていただろう。攻撃者は、政府機関の委託を受けた業者や、軍、マフィアや職業的ハッカー、未成年者など幅広い。多くの攻撃技術や手口は稚拙で、一般的なセキュリティ対策で防御できる。しかし、冒頭例に挙げたような、巧妙で悪質なサイバー攻撃に共通するのは、都市の重要なインフラの麻痺を狙っているということだ。

「IoT」が運輸交通システムを変革する

「IoT」という言葉をご存知だろうか。Internet of thingsの略で、日本語では「モノのインターネット」と訳される。パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットにつながることで、私たちの生活を激変させ、「第4次産業革命」をもたらすとも言われている。特に、日本の運輸交通システムにおいては、2020年までに大変革が起こると見られている。

 1つは自動運転車である。政府と自動車メーカーは五輪が開かれる2020年に自動運転車によるサービスの実用化を表明した。自動運転車は、自動車がインターネットに接続する「コネクティッド・カー」を具現化した次世代の車である。今年3月にはDeNAとロボットベンチャーのZMPが合弁で設立したロボットタクシーが、藤沢で実証実験を行い、実用化に向けて大きな一歩を踏み出した。

 鉄道も変わろうとしている。JR東日本はやはり2020年に、無線を使って列車の位置を把握する「CBTC」というシステムを一部の路線で導入することを発表した。このシステムでは、運転手が事実上不要になり、大幅なコストの削減にも繋がる。

©iStock.com

 これらの近未来の交通システム技術の核となるのが、政府が2018年までに3機打ち上げる予定の「準天頂衛星」である。これは、人工衛星から測位し、位置情報や時刻を伝達するシステムとして既にカーナビやスマートフォンにも利用されている、GPSの精度を更に高めた日本版GPSだ。位置情報の測位には、最低4機の人工衛星から信号を受信する必要があるが、日本には2010年に打ち上げられている準天頂衛星「みちびき」の1機しかなく、残りは米国のGPS衛星に頼らざるをえなかった。日本の準天頂衛星が4機揃うことで、従来のGPS衛星では数十メートルの誤差が出るのを、1メートル以下に収めることが出来る。この技術がインターネットと結びつくことで、新しい交通システムを支えることが期待されている。鉄道やバス、トラックなど物流にいたるまで、効率的な運行管理が進むのだ。

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