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言葉は非常に大きな苦しみを与えるけれども、しかし人を救うということはありますよね――北村薫(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/06/26

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「いちばん好きな言葉は何ですか」(20代女性)

●円紫さんと〈私〉のシリーズの続篇の可能性はありますか?『中野のお父さん』もぜひ今後も書いてほしいです。(40代女性)

北村 〈私〉のシリーズも「もう書きません」と言っておきながら書いちゃったですけれども。「今のところ予定はありません」と答えたほうがいいでしょうね。また17年後になるかもしれません…そうしたら孫ができているのかな(笑)。『中野のお父さん』は先ほども言いましたが、「オール讀物」の5月号に新しい短篇を書いています。

●いちばん好きな言葉は何ですか。(20代女性)

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北村 難しいですね。言葉はそれぞれ愛する子どものようなものですから。どの子がいちばんということは言えません。

●『うた合わせ 北村薫の百人一首』さっそく読ませていただきました。こんなにたくさんの和歌・短歌を読まれていて、一度も自分で作ろうと思われたことはないのでしょうか。(女性・50代)

北村 ないですね。やはり球技の種類が違いますから。句会のお誘いなどもありますが、とてもとても。

 

●ミステリを書く時、謎を思いついて物語を作るのでしょうか。登場人物やなんらかの設定を先に思いついてから謎を考えるのでしょうか。(40代女性)

北村 わりあい並行していると思います。謎が浮かぶと、並行してじゃあ設定は編集者だな、とか。あ、ということは謎が先ってことなのかな。『中野のお父さん』の場合は、いちばんはじめは謎があって編集者という設定が決まりましたが、その後は設定があったうえで謎を組み合わせたので、なかなか厳密にどうとは言えませんね。『六の宮の姫君』(92年刊/のち創元推理文庫)なんかは卒論を小説にしてますしね。卒論ですら無駄にしないという。

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

北村 薫 (著)

東京創元社
1999年6月 発売

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●円紫さんと〈私〉シリーズのような日常の謎が大好きです。普段から意識して日常の謎を探していますか。創作メモはとっていますか。今、先生にとっていちばんの日常の謎は何ですか。(40代女性)

北村 普段から謎を探しているわけではありませんが、巡り合えたらラッキーですよね。創作メモはとりません。でも書かないと忘れてしまう。今、「本の雑誌」にエッセイを連載しているので、ああいうのは助かります。忘れてしまいそうなことをおのずと書けますから。誰しもそうですが、最近のことはみんな忘れてしまいますので。

 最近のいちばんの日常の謎といえば、やっぱり『いとま申して』の調べものですね。日記にその時代の当然のこととして書かれてあることが、今読んでも分からなかったりするので。そういうのが次から次へと出てきますね。昭和8、9、10、11年のことが謎だらけです。

●中学生だった頃、北村薫さんの『空飛ぶ馬』に出会って以来、ずっと著書を愛読させていただいています。血生臭くないミステリーということと、覆面作家というインパクトも強く、思春期で会話が減っていた父と北村さんの正体を推理しあったのも懐かしい思い出です。なぜ覆面作家という選択をされたのか、それを91年に『夜の蝉』(90年刊/のち創元推理文庫)での日本推理作家協会賞受賞まで続けられたのかおうかがいしたいです。(30代女性)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

北村 薫 (著)

東京創元社
1994年3月 発売

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夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

北村 薫 (著)

東京創元社
1996年2月 発売

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北村 『空飛ぶ馬』を出した時に戸川さんから「これから執筆の注文が来るかもしれませんよ」と言われて、「そんなに書けるか分かりませんから、それは困ります」と言ったら、「では覆面だったら連絡のとりようがないからいいでしょう」ということになりました。でも日本推理作家協会賞を受賞してパーティに行かなくちゃいけなくなって、顔を明かしたわけです。まさか覆面をして行くわけにもいきませんからね(笑)。

言葉は非常に大きな苦しみを与えるけれども、しかし人を救うということはありますよね――北村薫(2)

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