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2020年「日本の姿」 各界の慧眼が見抜いた衝撃の近未来

坂口 志文
2017/05/07

花粉症を解消する新薬は登場するか?――2020年「日本の姿」

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : ライフ, 医療, ヘルス, 社会

 東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 今回は、免疫細胞「Tレグ」を発見した坂口志文大阪大学教授が、花粉症の新しい治療法、そして免疫細胞を活かした医療の未来を解説する。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

アレルギー反応を左右する「Tレグ」

 花粉症は1980年代から急激に増え、いまでは日本人のおよそ4人に1人が発症するといわれます。日本と同様に、他の先進国もこの数十年でアレルギー患者は急増しました。これは社会が衛生的になり、雑菌などに触れる機会が減ったせいともいわれますが、その「衛生仮説」も、「Tレグ(制御性T細胞)」と呼ばれる免疫細胞の発見により、よりクリアに説明できるようになりました。

©文藝春秋

 では、Tレグがこれまでの考え方をどう変えたのか、アレルギーとの関係について簡単に解説しておきましょう。

 免疫細胞は、よく軍隊に喩えられるように「パトロール隊」「司令官」、そして攻撃の「実働部隊」などの役割を持っています。例えば傷口から細菌が侵入すると、血管やリンパ腺にいる「パトロール隊」が捕らえ、「司令官」のT細胞に「こんな異物が侵入しました」と報告します。そのときT細胞が有害だと判断すれば、「実働部隊」に攻撃命令を出します。

 しかし、スギ花粉など有害でない異物まで「実働部隊」が誤って攻撃してしまうのがアレルギー反応です。花粉症だけでなく、自己免疫疾患と呼ばれる病気も、ほぼ同じ原因で起こります。例えば1型糖尿病や膠原病、安倍首相も罹った炎症性腸炎はその1つです。

 なぜ、誤って有害でない物質まで免疫細胞が攻撃してしまうのか。

 私の研究でわかったことは、「司令官」の誤った命令を止めさせる役割を持つ細胞「Tレグ」が存在するということでした。このTレグの働きが弱ったときに、「実働部隊」の攻撃が止められず、アレルギー反応が起こっていたのです。

 Tレグについて、1995年に免疫学の専門誌に発表した論文に世界中から大きな反響がありました。「免疫システムに攻撃を止める細胞が存在する」という発想は、それまでの常識になかったからです。

 Tレグの働きは、実際の病気治療でも確認できました。

 原発性免疫不全症の1つに、アイペックス症候群という極めて稀な病気があります。自己免疫疾患、炎症性腸炎が起こり、母乳も含めて何か口に入れると100%アレルギーになるため、治療しなければ3年以内に亡くなります。その原因は、Tレグをつくるのに必要な遺伝子の異常でした。そのため骨髄移植によって体内でTレグがつくれるようになると、免疫システムが正常に機能するという治療法が可能なのです。

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