文春オンライン

イケメン綱引き、ポッチャリモデル……面白イベントの見つけ方 田村セツコ×辛酸なめ子

「週刊文春」と「いちご新聞」の人気連載作家によるヨコモレ対談

note

締め切りの女王

田村 本当に、なめ子さんは多方面で仕事していらっしゃるから、睡眠をちゃんととっているのか心配になります。しかも、なめ子さんは、締め切りを必ず守られるそうね。うちに取材でみえたライターの方が、なめ子さんを「締め切り前倒しの女王」と呼んでいましたよ。

辛酸 女王というほどではないですが、編集者に締め切りを教えてもらったら、手帳にその日付よりも数日前に締め切り日と書いて、自分を騙すようにしているんです。

田村 えっ、本当? えらーい。自分にサバ読むのね。お仕事に対する姿勢では、なめ子さんがノロウイルスにかかった時の話は感動しました。締め切りを守るために、片手にビニール袋を持って、吐きながらも原稿を書き続けたのでしょう。

ADVERTISEMENT

辛酸 そういうこともありましたね。ノロウイルスって、何時間も嘔吐が止まらない恐ろしい病気で、死にそうになりました。本当に仕方なく、コンビニのレジ袋に吐きながら原稿を書いたんですよ。

田村 まるで歩きながら本を読んだ二宮金次郎みたいね。ビニール袋とペンを持った姿を銅像にしたいわ。

辛酸 銅像にしていただけるんですか(笑)。

田村 コラム以外にも、なめ子さんの新刊『あの世の歩き方』も読ませていただいたんですが、こちらも絵が多くて大変だったんじゃない?

辛酸 そうですね。昨年の後半は、こちらの仕事と連載の取材が重なって大変でした。「ヨコモレ通信」の取材で、リオ・オリンピックの凱旋パレードに行った時は、場所取りのために車道と歩道の段差に座っている間、ずっと書籍用の漫画を書いていましたね。

田村 えらい! 私は、カフェで仕事をすることはあるけど、行列の中で仕事をしたことはないわ。かっこいいですね。

辛酸 おかげでいい場所をキープできたので、パレードでは体操の白井健三選手と目が合いました。切羽詰まると、路上や電車の中で仕事をすることもありますよ。

田村 週刊誌に連載するって大変なことですもんね。

辛酸なめ子(しんさん・なめこ) ©文藝春秋

辛酸 でも、セツコさんも、サンリオの「いちご新聞」のイラストエッセイの連載を40年以上続けられていますよね。「いちご新聞」はタブロイド版なので、描くイラストも大きいと思いますし、大変ではありませんか? 

田村 そうですね。毎回、編集の方が、5月は母の日、6月は父の日、というようにその月の行事を教えてくださるんですけれど、うっかりすると、以前と同じような絵柄を描いてしまうことがあるんです。先日も、お父さんが娘に傘をさしていて、その周りに雨が宝石のように降っている絵を描いて、うっとりしていたのですが、ふと、編集の方に「お父さんが傘をさしている絵ってありましたっけ?」と聞いたら、「はい、去年ございました」と言われて。急いで描き直したんですよ。

辛酸 毎年のことなので、忘れてしまいますよね。

田村 人や物を描く時、癖になっている角度があって、あせっている時など、つい同じようなパターンを描いてしまうのね。横向きでウィンクするポーズとか、これは前描いたな、みたいな。

辛酸 なるほど。連載を続けていらっしゃるのもすごいと思うのですが、セツコさんは、個展のための絵も描いていらっしゃいますよね。

田村 そういった絵は、個展を開くことが決まってからバタバタ描いている感じかな。やっぱり締め切りがないとやりにくいんです。依頼されるのが好きなんです。

辛酸 そうですね。人に必要とされていると思うと、嬉しいですよね。

田村 ええ。仕事を依頼されたらワクワクしますね。忙しくて時間的に難しいと分かっていても、嬉しくてつい、引き受けてしまいます。今は、連載を新たに3つも始めることになってしまって、四苦八苦しています。