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イケメン綱引き、ポッチャリモデル……面白イベントの見つけ方 田村セツコ×辛酸なめ子

「週刊文春」と「いちご新聞」の人気連載作家によるヨコモレ対談

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貧乏こそおしゃれのもと

辛酸 もう9年くらい前になってしまいますが、セツコさんと雑誌の企画で初めて対談した時、「貧乏が大事。貧乏こそおしゃれのもとだ」と教えていただいたんです。そのことが今でも結構胸に残っていまして……。

田村 私、そんな風に言っていましたか? 人の価値観って変わらないのね。最近、出版した『おしゃれなおばあさんになる本』という本の中でも、同じようなことを書いています。

辛酸 セツコさんは活躍されるのも早かったので、それなりに富を築かれたと思うのですが、生活は質素にしていらっしゃるんですか?

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田村 ええ。そもそも富は築けてないので(笑)、質素にならざるを得ないんですけど。ぜいたくはなんとなく恥ずかしいと思っているの。別荘とか、お部屋に大理石やシャンデリアとか、人の羨む生活って、あんまり。

辛酸 管理が大変そうですもんね。でも、私はパワーストーンが好きなので、大理石はちょっといいかも。

田村 私は昔の人間なので、「質素を旨とす」という意識が染み付いているのかもしれません。廃物を利用するのがいいことだ、とかね。いらないものをリメイクして着たり、工夫するのが好き。昔は、みんなそうしていたんです。

辛酸 ちょっと昔の日本の映画をみると、登場人物が浴衣を自分で作っていたりしますよね。

田村 そうそう。同じ年代の方と比べて、ずいぶん若く見える男の人がいらっしゃって。その方に、「お若く見えますね」と言ったら、「僕、お金持っていないから」とおっしゃったの。「お金を持ったら、貫禄が出て、お腹も出てくるけど、お金を持っていないから、身軽に見えるんじゃないかな」って(笑)。

田村セツコ(たむら・せつこ) ©文藝春秋

辛酸 へえ~、かっこいいですね。お金がないおかげで、素敵でいられるわけですね。セツコさんは、ご自身の環境をいつも楽しまれているように見えるのですが、それも昔からなんですか?

田村 私は子どもの時からそういう考え方かしら。落とし物をした時は「拾った人がさぞかし喜んでいるだろうなあ」と、考えるタイプ。

辛酸 セツコさんは魂が善人なんですね。

田村 ふふ。家族が言うには、子供の頃、アイスクリームを庭に落っことして、母に「せっかくのアイスクリームだったのに残念ね」と言われたら、私は「ありんこが喜ぶからいいの」と言ったみたい。負け惜しみが強いのかもしれないわ(笑)。

辛酸 伝記になりそうなエピソードです。ご両親の介護も、楽しんでやっていらしたと聞いたのですけれど。

田村 ええ。本当に楽しかったです。ある方に、親の介護をしていることを打ち明けたら、「あなたは、自分が介護してあげていると思っているかもしれませんが、本当は、あなたの方が元気をもらっているんですよ」と言われたことがありました。

辛酸 介護をすることで元気になるのですか。

田村 病気で弱っているように見える人も、本当はいっぱいパワーを持っているの。介護をすると、お返しにそのパワーをいただけるんですって。

辛酸 そうだったんですね。何となくパワーを吸い取られるイメージがありましたが、そうではないのですね。仕事に介護にと、とても忙しい日々を過ごされていたと思うのですが、なにか、元気の秘訣はあるんですか?

田村 そうね。私はお酒が好きなので、晩ごはんの支度をする時にちょびっと飲んじゃう。そうするとたちまち、幸せになる感じ。

辛酸 どんなお酒を飲まれるんですか?

田村 ワインとか日本酒とか。カクテルも好き。お酒を飲むと陽気になれるからいいですね。百薬の長って本当。

辛酸 セツコさんって、ポジティブが基本にあるんですかね。

田村 頭のいい人だと、ネガティブなことにも頭が働くと思うんですけど、私はどうしてもポジティブな考え方になりますね(笑)。

「ヨコモレ通信」の次は……

田村 ところで、この「ヨコモレ通信」の連載が終わった後、なめ子さんがやってみたいことは?

辛酸 そうですね。この連載のために、情報量がありそうな場所やイベントばかり探していたので、自分の好きなジャンルのものはなかなか見ることができなかったんです。なので、取材・仕事モードではなく、素直に芸術を見たり旅行をしたりしたいです。

田村 素敵。ぜひぜひそうしてください。私もなめ子さんを見習って、人見知りなく出かけるようにしたいわ。

辛酸 わたしも人見知りなんですけどね。

田村 でも、気配を消せるのはいいですよね。私、正体不明や神出鬼没が究極のおしゃれだと思っているんです。なめ子さんはお若いのにその技が使えて、本当に魔法使いか、妖精みたい。これからも、なめ子さんの中の可愛いいたずら小僧に、くれぐれもよろしくね。

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
1974年、東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。漫画家、コラムニストとして活躍中。著書に『ほとばしる副作用』『ヨコモレ通信』『自立日記』(以上、文春文庫)、『おでかけセレビッチ ヨコモレ通信2』(文藝春秋)、『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(共著、マキノ出版)などがある。

田村セツコ(たむら・せつこ)
イラストレーター・エッセイスト。1938年東京生まれ。60年代に『りぼん』や『なかよし』の“おしゃれページ”で活躍。70年代には全国十数社と契約を結び“セツコ・グッズ”で一世を風靡する。詩作やエッセイも手がけ、著書に『田村セツコ HAPPYをつむぐイラストレーター』(内田静江・編)『すてきなおばあさんのスタイルブック』『おしゃれなおばあさんになる本』などがある。サンリオの『いちご新聞』では1975年の創刊以来、イラスト&エッセイを連載中。

(2017年4月14日)

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