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「スマホ害悪論」を考えることは『やすらぎの郷』を考えることである

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

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なぜ『テラスハウス』はスマホをいじらないのか?

おぐら そもそもSNS時代になって、人間関係は濃密になり過ぎてませんか? ツイッターやインスタで知り合いの近況をチェックしないと乗り遅れる、逆に自分も日常をアップしないと気が済まないって、さすがにそれは疲れます。

速水 濃密になっているのか手数だけ多くて薄くなっているのかは微妙なところだけどね。でも、最近気付いたんだけど、『テラスハウス』ってスマホいじらないんだよね、会話中に。番組の初期では気にしなかったけど、いまは不自然さが気になるようになった。

おぐら たしかに、何気なくスマホをいじりながら会話してるシーンって、見覚えないですね。リアリティ番組なのに、そこはリアルじゃない。

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速水 リアリティ番組は常にカメラが撮影しているわけだけど、現実の世界もそれに近づいていて、周囲はネットに接続されたスマホで囲まれている。

おぐら だからユナイテッド航空の事件も、決定的瞬間とともに拡散されたわけで。

速水 それがさらに逆転していて、リアリティ番組の中だけが、スマホの存在しない世界になりつつある。

おぐら ということは、テレビで放送されない「リアリティ番組」の現場が最もリアルで、例の打ち切りになったリアリティ番組こそが最先端?

速水 そう。で、やっとここまでの話を踏まえて今回の結論にいきたいんだけど、昼ドラマの『やすらぎの郷』の話がしたかった。

おぐら 『やすらぎの郷』きた! かつて、この連載で武田砂鉄さんがゲストに来た回で、老人版テラスハウスが必要だっていう話をしましたけど、まさにそれですよね。若者ではなく、洒落た老人たちが集まる夢の老人ホーム!

「やすらぎの郷」(前列左から)有馬稲子、八千草薫、倉本聰、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、五月みどり、(後列左から)松岡茉優、草刈民代、常盤貴子、風吹ジュン、藤竜也、ミッキー・カーチス、山本圭、名高達男 ©時事通信社

速水 そう、テレビ業界で活躍して、その後お払い箱になった人たちが集まる夢のような老人ホームのお話で、この設定だけでも十分に倉本聰のテレビ界への怨念は伝わってきており……。

おぐら 82歳の脚本家・倉本聰が、若者に迎合しないことをコンセプトに、70歳オーバーの往年の女優たちを起用して、高齢者をターゲットにしたドラマを企画。これが想定外の高視聴率ということで、話題になってます。

速水 業界では異例と言われているけど、テレビの視聴者層の高齢化を踏まえると、当たり前の方向性なんだと思われ……。

おぐら 「シルバー革命」とも言われてますよね。で、それがどうして今回の結論なんですか? なんかスマホと関係してます?

速水 いや、このドラマ、2クールの放送が決まっているんだけど、撮影現場には常に看護師が待機してるんだって。出演者の高齢者への配慮なわけで……。

おぐら なるほど。半年間、撮影を続けること自体がリアリティ番組ってことですか。

速水 放送の途中で脱落者が出るかも知れないと。女優が途中で出家するとか、別の意味での緊張感にさらされるという。

おぐら 恋に落ちるとかよりも切実で、無人島のサバイバルより現実的で、だいぶ緊張感ありますね……。

速水 いっそ、さらに追加で高齢役者を投入して、2クール以上続いて欲しい!

はやみずけんろう/1973年生まれ。ライター。TOKYO FM『速水健朗のクロノス・フライデー』(毎週金曜日朝6:00~9:00)、同局『TIME LINE』(第1・3・5火曜日19:00~19:54)、フジテレビ・ホウドウキョク『あしたのコンパス』、日本テレビ『シューイチ』などに出演中。近著に『東京β』(筑摩書房)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)などがある。

おぐらりゅうじ/1980年生まれ。埼玉県出身。フリーの編集者として雑誌『テレビブロス』ほか、書籍や演劇・映画のパンフレット等を手がけている。企画監修を務めた、テレビ東京の番組『ゴッドタン』の放送10周年記念本『「ゴッドタン」完全読本』が発売中。

「スマホ害悪論」を考えることは『やすらぎの郷』を考えることである

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