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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/05/05

ヘビの肉は美味いのか問題 新宿・歌舞伎町で実食

イラスト 小幡彩貴

 蛇肉の味がわからない。それが悩みだ。四、五回食べたことがあるのに訊かれると困る。

 所詮、肉の味なんてかなり“相対的”なものだ。牛肉だって、すき焼きとローストビーフではまるでちがう肉のように感じる。松阪牛の霜降りとオージービーフのランプ肉も別物だ(値段も別物のようだが)。味つけや調理法、部位、種類などで肉の味は大幅に変わってしまうのだ。

 蛇もそう。味の記憶が混沌としている。コンゴで食べて美味しかったと思ったのは、いずれも全長三メートル以上のニシキヘビである。たしかぶつ切りにしてヤシ油で煮込んだものと、燻製肉をキャッサバの葉と和えて煮込んだ料理だったように思う。前者はかなり味つけが濃く、後者はスモークされており、緑色野菜と煮込んでいる分、臭みがなく、肉も軟らかかったはずだ。

 味はワニ肉に似ていたと記憶する。ワニ肉については以前書いたが、「口にしたときは白身魚のようだけど、噛んでいるとだんだん噛み応えが出てきて、飲み込むときには鶏肉そっくり」というもの。

 いっぽう、同じコンゴのニシキヘビでも、狩猟採集民のムブティのキャンプ地で食べたときは臭みが強くてまずかった。

 それからタイのチェンマイにある料理屋で、自転車のタイヤほどの太さの蛇(アオダイショウくらいか)の炭火焼きを食べたことがあるが、それこそゴムタイヤのように固くて食えたものではなかった。

 他でもベトナムかカンボジアで食べたと思うが、このときは小骨が多くて、やはり途中でイヤになった記憶がある。ただし、調理法や味つけは覚えていない。

 あー、一体蛇の味って何なんだ!と苛々が募る。

 そこで満を持して、日本屈指の珍味系料理のワンダーランド、新宿歌舞伎町の「上海小吃(シャオツー)」。刺激的な「虫の盛り合わせ」の後は、蛇肉に挑むことにした。

 蛇の唐揚げ。揚げ物はいい。肉の味が外に逃げないし、タレなしなら濃い味つけもない。“相対的”の一つにしても蛇肉の基本形に近いのではなかろうか。

 調理前の蛇を見せてもらう。皮を剥ぎ、折りたたみ自転車のタイヤほどの大きさにまるめて冷凍されている。チェンマイで食べたものと同じサイズだ。

 しばらくして、薄く衣のついた唐揚げが登場。形といい大きさといい、ケンタッキーフライドチキンにも間違えそうだ。一口がぶっと囓る。

「おおっ!」と思う。美味い。あっさりふっくらした白身肉で、中身もKFCに似ている。ただサンマやアジのような小骨がびっしり生え揃ったところはいかにも蛇らしい。また、よくよく味わうと、飲み込んだときに若干臭みがある。

 総合的に言えば、コンゴのニシキヘビ肉の記憶に近い。つまり、「蛇肉≒ワニ肉≒鶏肉」という仮説が得られたわけだ。頭のもやもやがほどけて嬉しい。

コンゴで捕まえたニシキヘビ

 面白いのは、同席している担当編集者Y氏。もともと珍味系に不慣れなうえ、この日、私と一緒にまちがって生のバッタやセミの幼虫、また、調理済みとはいえ巨大ムカデやタランチュラも渋々食べていた。そのせいだろう、もはや蛇肉の唐揚げなど抵抗感は皆無らしい。「おいしい~。でも小骨が多いですねえ。鱧(はも)の料理人ならこの小骨もきれいに切ってくれるでしょうね~」と言葉もなめらか。

 こんなにホッとした顔で蛇を食べる人も珍しい。臭みも全然気にならないよう。初めから蛇肉だったら、到底こうはいかなかっただろう。

 肉の味は、別の意味でも“相対的”なものだと再認識させられたのだった。

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