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大型企画
2020年「日本の姿」 各界の慧眼が見抜いた衝撃の近未来

松江 哲明
2017/05/08

脱アイドル 前田敦子が世界へ羽ばたく時――2020年「日本の姿」

映画監督・松江哲明が注目する3人の若手女優

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : エンタメ, 芸能, 映画

 東京が56年ぶりの五輪を迎える2020年、政治や経済、国際関係はどう変化しているのか。スポーツや芸能、メディアや医療の世界には果たしてどんな新潮流が――。各界の慧眼が見抜いた衝撃の「近未来予想図」。

 3年後、日本を代表する女優として世界に羽ばたく女優は誰かーー。気悦の映画監督・松江哲明氏が挙げたのは、今まさに注目を集め始めた若手女優3名だった。

(出典:文藝春秋2016年7月号)

何もしないことが出来る役者ー前田敦子

 一緒に仕事をしたことはないが、作品のすべてを鑑賞し、追いかけているのが前田敦子だ。正直、AKB48の頃よりも映画に出るようになってからが凄い。

前田敦子 ©鈴木七絵/文藝春秋

 映画『苦役列車』の80年代そのものを体現していたヒロインも素晴らしかったが、なんといっても映画『もらとりあむタマ子』の存在感が最高だった。大学を卒業して実家に戻った中途半端な女子をただ、食っちゃ寝しながら演じる。ただぼーっとしてるだけなのに、可笑しくて仕方ないという前田敦子にしか演じられないヒロインだった。そんな彼女を見て、演技をしていないと言う観客もいるだろう。だが、そこがいい。

 演技ではなく作品の世界の中で生きる、それが出来る役者はそういない。『苦役列車』『タマ子』の山下敦弘監督は彼女をただ立たせるだけでユーモアを醸し出していたが、『Seventh Code』の黒沢清監督はアクションにも挑戦させていた。ウラジオストクを舞台にした先が読めない展開と後半のドンデン返しは、前田敦子だからこそ成立したのだろう。何もしないことが出来る役者は、そこにいるだけでサスペンスになる。

 僕は黒沢清監督のかつてのヒロイン、洞口依子のことを思い出さずにいられなかった。だからこそ彼女に喜怒哀楽が必要とされるような分かりやすい芝居をさせる演出家を見ると「もったいない」と思ってしまう。

 今の日本映画はそんな企画ばかりなのが残念だが、AKB48のセンターにいた経験値を持つ彼女が、何色にも染まらない魅力を持っているというギャップが面白いのだ。

 前田敦子は4年後もつかみどころのないままスクリーンの中に存在し続けるだろう。昭和の女優のように一切のプライベートを隠して生きることは不可能な現代だが、私生活がニュースになろうとも世間は彼女を消費できないだろう。それも現代の女優の条件だと思うのだ。