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『桐島……』『何者』『武道館』 時代を反映した小説を書きたい――朝井リョウ(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/05/09

genre : エンタメ, 読書

note

自分の名前でエゴサーチはしなくなりました

――大学生時代にどんな友達とどんな風に過ごしたのかは、エッセイ集『時をかけるゆとり』(2012年『学生時代にやらなくてもいい20のこと』というタイトルで刊行/のち改題して文春文庫)にたっぷり書かれていますよね。

時をかけるゆとり (文春文庫)

朝井 リョウ(著)

文藝春秋
2014年12月4日 発売

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朝井 そうです。あのエッセイのとおり、小説をほとんど書いていなくて、ある日「あれ、綿矢さんっていくつで芥川賞獲ったんだっけ」って思って……。綿矢さんと自分を比べていることがもう、信じられないくらい馬鹿なんですけれど(笑)。調べてみたら19歳と数カ月で受賞されていて、「自分も早くしなければ!」と壮大な勘違いをして。今から準備して応募できる文学賞を調べていたら、「小説すばる新人賞」が3月末締切だったんです。200枚以上という規定枚数が長編としては長くないというのと、昔1次選考を通ったことがあるから自分に合っているかもしれないと思い、その賞に決めました。それで、高校の時に書いた短編がいくつかあるから、それを繋ぎ合わせるように構成し直そうと考え、手術したのが『桐島、部活やめるってよ』です。当時プリンターを持っていなかったので、ヒロタという友達の家に借りにいって……印刷していたら途中でインクがなくなってドンキに走って買いに行って入れ替えたのを憶えています(笑)。書き上げたのが3月29日くらいで、推敲もまったくしていませんでした。推敲しろよ!とあのころの自分を殴りたい……。

――クラスの友達やダンスサークルの仲間は小説を書いていることを知っていたんですか。

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朝井 言っていませんでした。プリンターを貸してくれたヒロタも何を印刷しているか知らなかったはずです。受賞した時には、みんな若干引いていました、「小説とか書いてたんだ……」って(笑)。最終選考に残りましたという連絡がきたのは、大学2年の7月でしたね。その時は麻布十番にあるバイト先に向かう途中だったんですが、知らない番号から電話がかかってきたんですよ。出てみたら、「集英社の小説すばる編集部です」って言われて、「これ、いろんな作家の投稿時代の話で読んだことがあるやつ……!?」と思って体が固まって。それが後に担当となる伊藤さんという編集者だったんですけれど、電話口で「僕はあなたが受賞すると思いますよ」とか言ってその気にさせるんですよ(笑)。浮足立ったまま麻布十番の7番出口から地上に出て、目の前の道路を車がばーっと通っているのを見た時に、「あー、今の状況って、現実に起きていることなんだよなあ」って思って。体が震えていました。

 小説すばる新人賞は、最終選考に残ってから選考会までの間に、一度、原稿を直せるんですよ。そのためにはじめて編集者という職業の人に会うことになったと親に伝えたら「ハンコは絶対に押さないように。詐欺かもしれないんだから」ってメールがきました。「まだ本物かどうか分からないから」って。

 伊藤さんに会うために西武新宿線に乗っていたらすごく緊張してきたので、イイダという、小説家になりたいという夢を唯一話していた友人にメールを送りました。「緊張がとまらない」って。そうしたら彼は緊張をほぐそうと思ってくれたらしく、こんな場で女性に向かって言うのもなんですが、「ちん毛って よく見ると平べったいところがあるよね」って返信をくれて……。それで和みました。この話は本邦初披露です(笑)。

――初披露をありがとうございます(笑)。そして見事受賞されて、デビューが決まって。ペンネームはどうやって決めたのですか。

 

朝井 最初は、本名の漢字を変えたもので投稿していたんです。でも受賞した後、伊藤さんから「あ」から始めるペンネームが、書店などでも棚が見つけやすくておすすめだよと言われて。それで、本名の1文字目を「あ」に変えて、「朝井」にしました。あっさり(笑)。名前は漢字にしておけばよかったのかな、と今になって感じます。50歳とかになった時に、普通に漢字のほうがよかった、って思いそうな気がする。

――デビューしてすぐ話題になって、プレッシャーなどはありませんでしたか。ネットでエゴサーチして自分に対するコメントもチェックしたりしていましたよね。

朝井 プレッシャーは、直木賞を受賞した時のほうがありました。新人賞の時は正直、全然プレッシャーなんて感じていなかったかもしれません。大学生の時からネットでエゴサーチはしていますね。初エゴサーチは大森望さんのツイッターでした。小説すばる新人賞の授賞式にいらっしゃっていて、「朝井リョウはイケメン風」ってつぶやかれていて。ああ、そうですよね「風」ですよね。イケメンとは言い切れませんよね……って思いました(笑)。

 でも途中からは名前でエゴサーチはしなくなりました。知りたいのは作品の評価だったので、名前ではなく作品名で検索するようになりました。名前で検索すると、小説の内容とは全く関係ないことが書かれていたりするので。僕は小説の反響を知りたいんですよね、自分自身のことはどうでもいい。作品名検索だと、たとえ「ラストがひどかった」と言われていても、「でも最後まで読んでくれてありがとう」と思えます。いまだにすごく検索しています。マーケティングの気持ちでやっています。

(2)に続く

『桐島……』『何者』『武道館』 時代を反映した小説を書きたい――朝井リョウ(1)

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