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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2015/10/17

耽美がくるりと輪を描いた(後編)
――『陰陽師』はこれを読め

genre : エンタメ, 読書

 前編がアップされたあと、「NHK 版陰陽師は原作ベースなのでオススメです」というご教示をたくさん頂き、ならば見よう、見よう、そういうことになった――のだけど。レンタルショップは扱ってないし、買おうにも中古しかなくてエラい値段がついてたりして、いまだ鑑賞できず。寺尾聰のステキに汚そうな蘆屋道満、見たいのになあ。

 せめて原作のどの話がドラマ化されてるのかだけでもチェックしようと調べてみたら、あら、私の好きな「鬼小町」(文春文庫『陰陽師 飛天ノ巻』所収)が入ってるじゃありませんか!

陰陽師―飛天ノ巻 (文春文庫) 文庫

夢枕 獏 (著)

文藝春秋
1998年11月10日発売

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 これは、謎の老婆がある寺に、毎日のように花や木の実を置いていく話(ごん、おまえだったのか)(違う)。暗号ミステリ的な趣向が楽しいんだが、メインは、死した後も浮世に未練を残し鬼と化した女性です。そして晴明が「解決できなかった」数少ない例でもある。ラストシーンの、美しくも壮絶なことと言ったらもう。

 晴明の仕事って、今でいえばカウンセラーだと思うの。作品に登場する鬼の大半は、何かに執着したり恨んだりというマイナスの感情が膨れ上がって本人を蝕み、コントロールが利かなくなった状態のメタファなのね。その気持ちを解放してやるのが晴明の仕事。けれど「鬼小町」のヒロインは、晴明でもどうにもしてやれないくらいに、心が鬼に占領されてた。

「誰でも皆、心には鬼を棲まわせているのだ」とは、長編『陰陽師 生成り姫』(文春文庫)をはじめ、本シリーズの随所に出てくる晴明の言葉です。現代の私たちだって、心の鬼が顔を覗かせそうになることがある。慌てて蓋をして、鬼なんかいないふりをするけど、ときどき、抑えられなくなったり……。え~ん、助けて晴明。

陰陽師生成り姫 (文春文庫) 文庫

夢枕 獏 (著)

文藝春秋
2003年07月10日発売

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