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ムネオの娘が語る「父と世襲」

有名すぎるオヤジの「七光り」と「十字架」を問う

2017/04/30

genre : ニュース, 政治

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「同じ世襲でも、父から息子、父から娘という場合で違いもあるのかもしれません」

©白澤正/文藝春秋

――でも、世襲議員が増えると特定の階層の声しか届かなくなり、政界に多様性がなくなると言われます。そういう批判に対しては、どう思いますか。

「多様性……。それは、大事だと思いますけど、世襲よりも小選挙区制のほうに弊害があると思います。庶民感覚が政治の場に届けられないという背景に世襲の問題があるかもしれませんが、小選挙区制のせいで、選挙区内に現職が複数いた中選挙区の時代とは違って、勝ってしまうと『一国の主』になってしまって、常に切磋琢磨があるわけでもなく、多種多様な政治家が育ちにくくなっていますよ」

――「世襲政治家」と呼ばれる人の中には、親と比べられることに過敏に反応される政治家が多い気がします。田中角栄の娘である田中真紀子さんは最近出した著書『父と私』の冒頭で「この世で何が鬱陶しいといって、他人から父についてあれやこれやと聞かれることほど煩わしいことはない」と綴っています。小泉進次郎さんも純一郎さんの主張と比較するような質問を記者から受けると、一瞬、嫌な顔をして「父は父、私は私」と応じる。私もある超大物の二世政治家のインタビューで「父」の話を出した途端に「父の話はいい!」と叱られたことがあります。貴子さんは他人から宗男さんの話をされることがイヤですか?

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「はあ、そういうものですか(苦笑)。

 議員バッジ付けた当初、とある二世の先生が『鈴木さんはこういう言い方されたらイヤだと思うけれど』と言った上で、『宗男先生にはボクも、ボクの父も大変お世話になりました』と。それを聞いて、全然気に障らないし、『どうしてそういうことを始めに言うのかな?』と思いました。

 もし、私が『父は父ですから』、『父の話はちょっと……』という態度を取ったら、うちの後援会から叱られます。『そういう控えめな貴子を求めていない!!』と。鈴木宗男イズムが大好きで、鈴木宗男の政治力を期待してくれている人たちばかりですから。『お前の父さんだったら、なりふり構わずやるぞ』と言ってくれるかな。

2016年新党大地の新年交礼会での父娘 ©三宅史郎/文藝春秋

 同じ世襲でも、父から息子、父から娘という場合で違いもあるのかもしれません。男同士は永遠のライバルであって、死ぬまでお互いに葛藤があるものでしょう。兄からもおれは父にそんなこと言えなかった、そんな態度を取れなかった、『娘って本当に羨ましいなあ~』と言われる。私は『娘であることの強み』をわかっているし、むしろしたたかに利用しています。鈴木宗男とは性別も違うから単純に比べられないでしょう。だからこそ、そこに鈴木貴子のヌルさもあるのかもしれませんが。

 あと、親が生きているかどうかでも違うと思います。いない方の場合は直接ぶつかれないことへの葛藤があるのかもしれない。私の場合は、鈴木宗男に言いたいことを言って直接ぶつかることができる。もし父が生きていなかったら、私はもっと苦労したでしょうね。

 だから、小渕優子先生のことは、女性としても政治家としても尊敬しています。私、小渕恵三総理からお年玉をもらったことがあるんです。父は小渕内閣で官房副長官として一緒に外遊に行っていましたし、私が3歳の時に平成になったのを覚えていて、お会いした時に『あ、平成のおじさんだ!』と思って。

 実は、その娘さんである優子先生から留学中にお手紙もらったことがありました。私が留学先から一時帰ってきて鈴木宗男の選挙を手伝う様子をテレビで見られたようで、『お父さんのためにあんなに頑張っているのを見ると、私はできなかったので自分のことのようにうれしくなった』と激励されました。やっぱり同じ政治家の家族でも女性の場合は、素直に手伝ってあげたいという気持ちがあるのかもしれませんね」

©白澤正/文藝春秋

「操り人形になっている」という批判、「鈴木貴子のヌルさ」

――たしかに、同じ世襲でも「父から娘」というのは従来とは異なりそうですね。世界に目を移せば、韓国の朴槿恵、インドネシアのメガワティ、パキスタンのブットー、フィリピンのアロヨ、ミャンマーのスーチー、フランスのルペン、ペルーのフジモリ……と、権力者の父を持つ女性リーダーは実は多い。その場合、父の「怨念」を晴らす役目を演じさせられることが多いのですが、貴子さんは世襲であることが自らの行動を縛り付けることはありませんか。例えば、16年2月に民主党を離党した際には鈴木宗男さんの言動ばかりが目立ちましたが、貴子さん自身はどうしてあの決断をしたのでしょうか。

「根室管内、釧路管内、北方領土4島が私の選挙区だと自負しています。北方領土問題は鈴木貴子の世代で解決するという信念を持っています。そこで、民主党(当時)が北海道5区補選で選挙協力を決めた共産党は4島を認めていない。サンフランシスコ平和条約も認めていない。全千島の返還を謳っているのです。その共産党と組んだ時点で4島返還を諦めることになる。そこは譲れませんでした」

©白澤正/文藝春秋

――そういうふうに、貴子さんの口から聞かせてもらうと説得力があります。しかし、どうしても、父の声のほうが大きく、父の意見に付き従っているように見えてしまうのも事実です。

「たしかに『操り人形になっている』という批判は受け止めますし、鈴木貴子独自の考えが聞けなくてじれったいと思う後援者もいることは確かです。鈴木貴子の代からの若い後援者も増えてきていますので、『ムネオさんよりタカちゃんから聞きたい』という人もいる。それが十分にできていないのは、父がどうこうではなく、政治家・鈴木貴子のヌルさだと思います。男性の二世のように父のライバルになろうとしていないし、主従関係でもないし、いきなり収穫時期に差し掛かる政策や事業もあったりするわけだし、すべてをゼロから自分で耕す、開墾するということはしていないヌルさは認めます」