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「日本人のがんは増えている」──その“常識”ホントに正しい?

マスコミ報道ではわからないカラクリ教えます

2017/05/06
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 みなさんに問題です。

問)日本人の胃がんは増えているでしょうか?

 胃がんは日本人に多いがんですが、現在どんな傾向にあるかご存知でしょうか。ぜひ、本文を読んで確かめてみてください。答えは記事の最後にあります。

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恐ろしい勢いで増えているように見えるがんだが……

「日本人のがんは増えている」。大半の人が、そう思っているのではないでしょうか。マスコミの報道も、がんの怖さを煽るものがほとんどです。

 確かに「数」だけを見ると、がんにかかる人も、がんで亡くなる人も、右肩上がりに増え続けています。国立がん研究センターの推計によると、2016年の全がん罹患数は約101万人、がん死亡数は約37万人で、30年前に比べ罹患数は約3倍、死亡数は約2倍となりました(1986年の罹患数が34万人、死亡数が約19万人)。

 このようなデータを見ると、恐ろしい勢いで日本人のがんが増えているように感じます。しかし、次のグラフを見れば、印象はガラリと変わるはずです。これは、国立がん研究センター「がん登録・統計」に掲載されている、「部位別がん年齢調整死亡率の推移」です。これを見ると、いくつものがんで死亡率が下がる傾向にあることがわかります。

『がん検診を信じるな「早期発見・早期治療」のウソ』鳥集徹(宝島社新書)より

年齢調整死亡率で見た驚きの真実

 年齢調整死亡率とは、がんの死亡率を社会の高齢化の影響を除外して計算したものです。なぜ、そのような調整をするかというと、がんは高齢になるほど増える病気だからです。

 昔に比べて日本の高齢化はどんどん進んでいるので、そのままの数字で死亡率を比較すると、高齢化の影響が上乗せされてしまいます。そこで、 基準となる年(国内では1985年)の人口構成に合わせて死亡率を計算し直し、その数字で比較するということが行われているのです。

 そうやって導き出された年齢調整死亡率の推移を見ると、男女合わせた全がんの死亡率は、1995年頃から下がり続けていることがわかります。女性は1960年頃から一貫して下がり続けていますし、男性も1995年頃をピークに低下傾向となっています。

最も急激に減っているのが「胃がん」

 がん種別に見ると、最も急激に減っているのが「胃がん」です。日本は世界でも有数の胃がん大国で、死亡率も断然1位だったのですが、肺がんに抜かれて2位になりました。胃がんリスクを上げるヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌)の感染率の低下や、高塩分食品の摂取が減ったことなどが要因とされています。

 胃がんに代わって1位となったのが「肺がん」です。しかし、これも喫煙率の低下や大気汚染の改善が功を奏してか、死亡率は減る傾向にあります。また、「肝がん」も肝炎ウイルスの感染者が減ったことで、死亡率が減少傾向にあります。輸血や血液製剤、注射などの感染予防策が進んだ結果と考えられており、今後も肝がんの患者は減少していくと予想されています。

 現在、国立がん研究センターのサイトでは、年齢調整死亡率で見ると「膵がん」「子宮頸がん」「子宮体がん」などは増加傾向にありますが、あとは軒並み横ばいか、減少傾向にあると評価されています。つまり、高齢化の影響を除くと、多くのがんが「増える」どころか、むしろ「減っている」と言えるのです。

高齢化の影響を除くと、多くのがんがむしろ減っている ©iStock.com