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伊藤 邦雄
2017/05/08

日本企業にふさわしいコーポレートガバナンスの姿とは?

東芝の失敗が問いかける重要課題

 近年、収益性を高めつつも経営の透明性をもたせようというコーポレートガバナンスが注目を集めている。しかし東芝問題等に見られる通り、企業の不正が相次ぐ中、その役割を今一度考え直す必要が出てきた。この時代に、経営者に必要とされるガバナンスへの向き合い方とは何か。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

「稼ぐ力」と持続的成長のためのコーポレートガバナンス

 近年、それまでは余り馴染(なじ)みのなかったコーポレートガバナンス(企業統治)がにわかに日本の企業経営で注目を浴びるようになった。火付け役となったのは、2014年8月に公表された「伊藤レポート」、そして2015年6月から上場会社に導入されたコーポレートガバナンス・コードである。

©iStock.com

 大事なことは、こうしたレポートやコードの背景を理解することである。これらは第3次安倍政権が進める成長戦略と軌を一にするものである。背景には大きな危機感がある。日本の平均株価水準は20年にわたって低迷を続けてきた。まさに「失われた20年」である。主要国の平均株価水準が上下動をしながらも長期的に上昇を続けていたのとは対照的だ。これでは国の金融資産はしぼむばかりである。そうなればシワ寄せは国民全体に及び、個人への年金も払えなくなるか、その原資は縮小してしまう。

 日本企業は、イノベーションを創出する力を十分に持っており、その評価も世界的に高い。しかし、肝心の成果である収益性は長期間低迷していた。経営者の中には、長期目線の経営であり、すぐに利益は出ないと主張する者もいる。しかし、20〜30年にわたって持続的低収益性に陥っていたのである。

 このパラドックスは、日本が長らく抱えてきた「不都合な現実」である。この現実を直視し、パラドックスを克服しないと、中長期的な資金が日本に入ってこず、イノベーション創出活動がいずれは限界を迎えてしまう。

 こうした膠着(こうちゃく)状態を打破し、「稼ぐ力」を高め、企業が持続的成長をするために、企業経営に一定の規律と緊張感と透明性をもたせようというのがコーポレートガバナンスである。

社外取締役が果たすべき役割

 コーポレートガバナンス・コードは二名以上の社外取締役の導入を求めている。社内の執行役員だけが取締役会のメンバーでは、馴れ合いになったり、社内の常識に囚われたりして、資本の生産性(ROE:自己資本利益率)や収益性が上がらないおそれがある。社外取締役が経営陣の業務執行を監督する(「守りのガバナンス」)一方で、必要なリスクを取りながら成長戦略を実行するよう経営陣に促す(「攻めのガバナンス」)ことが期待されている。東芝や三菱自工のような不祥事を防ぐため「守り」を徹底しつつ、企業価値を持続的に高めるような「攻め」の経営を行うよう規律づける必要がある。

 東芝は指名委員会等設置会社であり、ガバナンスの構造としては先進的と言われていた。しかし、不正が発覚した。そうした不祥事や不正を社外取締役(および社外監査役)が今後防げるだろうか、という疑問が国民的テーマとなった。では、社外取締役は「不正」を見抜けるのか。これは、今後のコーポレートガバナンス上、重い課題となるだろう。

 社外取締役は監査を直接行ったり、内部統制そのものに直接関与するわけではないので、不正そのものを発見することは難しい。しかし、やれることはある。不正や不祥事の「芽」を嗅ぎ取り、経営者に事前に注意を促すことは可能である。「芽」はその企業固有のカルチャーに色濃く現れる。社員のモチベーションを削ぐようなストレッチしすぎる予算の立て方、会議等での予算必達への経営者・上司の度重なる威圧的発言等。社外取締役は、その会社の企業風土を早めに察知し、そうしたことが観察されれば、経営陣にすみやかに忠告すべきである。

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