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出口 治明
2017/05/10

日本を「世界一子どもを育てやすい国」にするために 出口治明氏の提言

理想の暮らし実現へのグランドデザイン

「ご飯が食べられる。温かい寝床がある。上司の悪口が言える。赤ちゃんが産みたいときに産める」。これがライフネット生命会長の出口治明氏が考える理想の社会の条件だ。しかし、現在の日本社会でこれらが実現されているとは到底言えないだろう。それは高度経済成長期と同じモデルで社会が動き続けているからだ。この理想を達成するための新たなグランドデザインを出口氏が提言する。
(出典:文藝春秋オピニオン 2017年の論点100

 人間にとって理想の暮らしとは、どのようなものか。それは、普通にご飯が食べられて、温かい寝床があって、ときどき友だちと酒を酌み交わしながら上司の悪口(≒政府の批判。言論の自由)を言い合えて、そして、産みたいときに赤ちゃんが産めることではないでしょうか。

 僕がこう考えるようになったのは、ダーウィンの影響が大きい。「人間はどこから来てどこへ行くのか」という、いわば人生の大命題のようなものが気になってしかたがなかった子ども時代、本を読むようになって出会ったのが、ダーウィンの進化論でした。進化論から学んだものはいろいろありますが、中でも強烈だったのは、「あらゆる動物は、エネルギーの95%を次世代のために使っている」ということ。この大前提に立てば、「ご飯・寝床・上司の悪口・赤ちゃんが産みたいときに産める」という理想の社会の条件は、いつの時代でも、どの地域にも当てはまる普遍の真理だと思うのです。

「ご飯」「言論の自由」「赤ちゃん」に赤信号

 では、これらの条件を現在の日本に当てはめてみると、どうなるか。

 まず、「ご飯」はGDPと置き換えていいでしょう。IMF(国際通貨基金)が発表したデータによれば、2015年の日本の経済成長率は0.5%。アメリカは2.4%、ユーロ圏は1.7%です(2016年7月発表)。人口が順調に増えて、石油生産量がサウジアラビアを抜いて世界一となったアメリカと比較することは少し無理があると思うので、最近は国の規模が同じくらいのフランスやドイツを含むユーロ圏を参考にしています。それでも、日本とは成長率で3倍以上の格差があることがわかります。

 次に、「寝床」は、2013年の時点で、日本には800万戸もの空き家があるそうです(国土交通省・2015年度 住宅経済関連データ)。当面、心配はありません。

 3番目の「上司の悪口が言えるか」とは、言論の自由があるか、ということになります。「国境なき記者団」が2016年4月に発表した報道の自由度ランキングで、日本は2010年の11位から大きく下がって72位に位置づけられました。国連の「意見及び表現の自由」調査でも、「日本政府はメディアの独自性保護と国民の知る権利促進のための対策を緊急に講じるように」という勧告が出されています。

 最後に、「赤ちゃんが産みたいときに産める」という項目に関しては、言うまでもないでしょう。厚生労働省は2015年10月時点での保育園等の待機児童数を4万5000人以上と発表しましたが、潜在的な人数はもっと多いはずです。これでは安心して赤ちゃんが産めない。

 こうしてみると、4条件のうち3つに赤信号がともっているのが、今の日本の現状です。

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