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連載歴史・時代小説の歩き方

大矢 博子
2015/04/18

読切よ本屋もありがとう
――今と変わらぬ? 江戸の書店事情

genre : エンタメ, 読書

 4月23日は親しい人に本を贈る「サン・ジョルディの日」。スペインのカタルーニャ地方の守護聖人・サン・ジョルディの命日なのだそうだ。それがなぜ本の日になったかっつーと、この日がセルバンテスやシェークスピアの命日でもあることと結びつけ、カタルーニャの本屋さんがプロモーションに使ったのが始まりらしい。まあ、ぶっちゃけ、商売ですね。

 商品を売るための工夫や宣伝ってのはどんな商売にもつきもので、もちろん本だって例外じゃない。サン・ジョルディの日や本屋大賞もそうだけど、最もベーシックな宣伝活動に〈書店の店先〉がある。平台の陳列、紹介コメントを書いたPOP、フェア。本屋さんは頑張っている。

 本屋さんは現代だけじゃなく、江戸の頃から頑張ってた。志川節子『春はそこまで 風待ち小路の人々』(文春文庫)は、江戸の小さな商店街が舞台。前半は各商店の話、後半はそこに武家の仇討ちが絡んでくる。その構成がなかなか読ませるんだが、ここでは前半に注目だ。第1話「冬の芍薬」は絵草紙屋・粂屋の話で、これが実に興味深いのだ。

 絵草紙屋というのは錦絵や草双紙などを扱う小売店、つまりエンタメ中心の町の本屋さんのこと。この絵草紙屋の仕事の様子が、まあびっくりするほど今の書店と同じなのよ。幾つか紹介するね。

「前日の注文どおりに品が届いているか帳面と突き合わせ、品薄になっているものを発注する。錦絵の新板は、英泉の美人画と国貞の役者絵を多めに仕入れることにした。古今の英傑を描いた武者絵にも、根強い人気がある。『ああそれと、長唄の稽古本を十冊ばかり。存じよりの御師匠さんに頼まれてね、ちと急ぐんだが』」

 後半のセリフは地本問屋の手代(版元の営業マン)に向けたもので、つまり客注、取り寄せも対応してたことがわかる。ね、今と一緒でしょ?

春はそこまで 風待ち小路の人々 (文春文庫)

志川 節子(著)

文藝春秋
2015年2月6日 発売

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