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能町 みね子
2017/05/11

LGBTにまつわる問題は「具体的に動く」ことで前進する

旬選ジャーナル 目利きが選ぶ一推しニュース

▼〈生きやすい空気をつくるために〈同性婚論議〉のその先へ〉『世界』5月号(座談会 上川あや×岡田実穂×宇佐美翔子×砂川秀樹)

 ここ数年、「LGBT」という単語は確かに広まったが、言葉ばかりが先行し、単にLGBTの中でも多数派であるゲイ(あるいはホモ、オカマ、オネエなど差別的色彩を帯びる単語)をやや硬く言い換えたものという誤ったイメージで拡散しているように思う。一昨年、友人によるアウティングを機に一橋大の大学院に通うゲイ男性が転落死するという痛ましい事件があったが、この時NHKの報道は亡くなった方を「LGBT男性」と呼んでいた。「LGBT男性」と呼ぶのは「老若男女の男性」と言うくらいおかしな言葉である。LGBTをめぐる事態は進むかと思えば世間の流れが変な方向に舵を切ったりして、どうもうまくいかないものだ。

 こうした現実に触れているせいか、LGBT関係の画期的な報道はいつも唐突な印象がある。渋谷区でパートナーシップ条例が施行されたのも突然だったし、今年四月の「大阪市で同性カップルが里親認定」というニュースもかなり唐突に感じた。里親制度は特別養子縁組と違って実質的に親子関係になるものではないが、同性カップルが子供のある家庭を持つことを認めたということはパートナーシップ条例よりも大きな前進ではないかと思う。報道を唐突だと感じるのは、おそらく単に私がLGBT関係のニュースをさほど積極的に追っていないせいなのだろうが、なかなか表に出てこないだけで権利獲得に向けて絶えず積極的に活動している人たちは確実にいるのである。

「世界」五月号での座談会は、このような活動について語り合ったもので、同性婚について法的に認められるよう、水面下で具体的な挑戦がどのようにされているかが明らかとなるものであった。

 世田谷区議としてパートナーシップに関する要綱成立に尽力した上川あや氏、『新宿二丁目の文化人類学』を著した砂川秀樹氏に加え、保守的なイメージのある地方都市(青森市)でセクシャルマイノリティなどの権利擁護活動をしている岡田実穂氏、宇佐美翔子氏の同性カップルによる個人的体験の話が非常に新鮮。

 例えば、岡田・宇佐美氏は、絶対に受理されないことを分かりながら、市役所に婚姻届を出してみることに挑戦する。実際に書いてみるといきなり「夫/妻」という欄にとまどい、別姓で書いたもの、「夫/妻」を「1/2」と書き換えたもの、夫と妻にむりやり当てはめたものの三タイプを提出してみることにする。すると、前者二つは受けつけてもらえず、三枚目だけは一応受けつけてもらってから改めて不受理という扱いをされた。

 こうして具体的に動いてみると、婚姻届の問題は憲法以前に戸籍法の問題だと言うことがはっきりし、夫婦別姓や外国籍問題など、戸籍法に異論がある人とも共闘できることが判明するのである。

 また、渋谷や世田谷などがパートナーシップについて積極的に取り組んでいるという印象が強すぎるために、ローカルに存在するLGBTがそこだけに希望を見いだしてしまい、仕事や生活の具体的な計画もないまま移住について相談されることも多いらしい。地方都市在住者の目を通すと、限定的な場所が「救いの地」となるだけではLGBTにまつわる問題の解決には至らないということを深く思い知った。

 ある大きな問題について、理論だけで考えるのではなく、まずは無謀でも具体的に動いてみることで結果として問題の細部を突きとめ、からまった糸を解きほぐすように細部から解決していくという手法。この繰り返しによってLGBTをめぐる諸問題は長い時間をかけて前進していくのだと実感した。

世界 2017年 05 月号 [雑誌]

岩波書店
2017年4月8日 発売

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