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山田 航
2017/05/14

学生運動の闘士は、なぜガンダムを生み出せたのか

山田航が『原点 THE ORIGIN――戦争を描く、人間を描く』を読む

『原点 THE ORIGIN――戦争を描く、人間を描く』(安彦良和×斉藤光政)

 ガンダムシリーズは『機動武闘伝Gガンダム』しか観たことがない(よりによってGガンだ)。そんな僕でも『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー・安彦良和が、弘前大学全共闘の元リーダーであるという経歴は知っていた。

 学生運動の闘士から、サブカルチャーの偶像へ。そんな異色の生涯に迫っている。学生運動家の評伝は数多いが、その思想と経験がサブカルチャーへと接続してゆく過程が綴られているという点で、今までになかった本だといえるだろう。

 安彦良和は北海道遠軽町に生まれ、進学で青森県へと出た。県内には米軍三沢基地があり、米ソ冷戦のリアルを感じられる場所だった。未来への悲観的な思いが、ガンダムの基層をつくった。民青に入るも失望し全共闘へと参加していったが、ヘルメットにタオルというおなじみの活動家アイテムを手にしなかった。「頭が大きくてヘルメットが入らなかったからだ」とうそぶくものの、本当はファッション化した学生運動を嫌っていたからだった。

 大学本部を占拠した結果、逮捕・除籍処分を受けた安彦は、「もう青森にいられない」というどんづまり気分で上京し、大学ノートに描き溜めていた漫画を見せて虫プロのアニメーターになった。そうして出会ったのが『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサー・西崎義展だ。

「全共闘世代は信用しない」と言い放つ半分ヤクザのような男に、なぜか安彦は気に入られた。左翼崩れのアニメーターと芸能ビジネスあがりの右翼。普通なら絶対に合いそうにないこの二人の出会いとヤマトの快進撃の思い出は、全篇の中でも最もキラキラした青春感に彩られている。

 戦後のサブカルチャーは、はみ出し者を受け入れてくれる場所だった。その自由さが、日本のサブカルチャーを世界のポップカルチャーへと押し上げた。行き場のない繊細な知性たちはいつの時代も現れる。サブカルチャーの懐の深さを思い知らせてくれる一冊だ。

やすひこよしかず/1947年北海道生まれ。弘前大学除籍。虫プロを経てフリーのアニメーターに。「ガンダム」で一世を風靡、のち漫画家に転身。

さいとうみつまさ/1959年岩手県生まれ。東奥日報編集局次長。

やまだわたる/1983年札幌市生まれ。歌人、批評家。歌集『水に沈む羊』、言葉遊びエッセイ『ことばおてだまジャグリング』など。

原点 THE ORIGIN

安彦 良和(著)

岩波書店
2017年3月11日 発売

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