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【DeNA】梶谷隆幸はベイスターズファンの「青春のリグレット」なんです

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/05/10

ロマンよりも安定を選んだ私

 梶谷隆幸、青い韋駄天。この応援歌を聞くと私は、なぜか胸がきゅうっとしめつけられる思いがします。

 身体能力のお化け、ロマンの塊、可能性の権化……梶谷を形容する言葉って、途方もない未来ばかりを期待させるもの。「完成形」が見えない、分からない、だからこそ夢を見て、時に裏切られて……。ホームランをバカスカ打つ年もあれば、盗塁王に輝く年もあったり、ファンはみな「今年の梶谷は何タイプか」と胸を躍らせます。そして出口が定まりきらない才能が、ふいにあふれだす瞬間を目撃するたびに、胸が苦しくなるんです。その無限の伸びしろが埋められていくのを待てなかった自分に。

 結局私は信じ切れなかったんですよ。いるはずのセカンドベースから突如姿を消したアイツを。やらかして番長パイセンの勝ちを消したアイツを。パワー、バネ、脚力、センス、そして野球への熱量。本当は人並み外れたものを持っていた梶谷を、当時の私は信じ切れなかったんです。

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「まだものにはなっていないけれど、夢を追いかけて頑張っていた彼氏」を「あんな男やめときなって」「ギャンブルだよ」「絶対幸せになれない」と周りの友だちに言われて心がグラつくのって、こんな感じなのでしょうか(※特に経験なし)。結婚するなら絶対、安定した仕事、安定した収入、浮気も遊びもせずコツコツ真面目に働く人がいいに決まってる。三振か、ホームランかの男より、きっちり一定の率を残す男。面白味、ドキドキ感、夢、ロマン……そんなの、これから長く続く現実の前では儚い刹那の感情だから。自分にそう言い聞かせて、人は大人になっていく。

5月9日現在、リーグトップタイの7本塁打を放っている梶谷隆幸 ©文藝春秋

梶谷への愛を貫き通した中畑清

 でもひとり、信じることをやめなかった人がいました。ただまっすぐに梶谷への愛を貫き通したのは……慢性的絶不調チームにやってきた絶好調男、中畑清前ベイスターズ監督。結果が出ない日々が続き、ファンからの罵詈雑言はもちろん、当の本人ですら「試合に出るのがつらかった」と語るほどの状況で、それでも「おまえならできる」とレギュラーで使い続けた中畑。中畑は自分がベイスターズに来て最初に目に飛び込んできたという梶谷、そのダイヤの原石と、野球人としての自分の目を信じて試合に出し続けた。そしていつしか梶谷はベイスターズになくてはならない選手になっていました。

 2016年の春先、脇腹を痛めて離脱していた梶谷が戻って来たあの試合が忘れられません。「これはおそらく本塁に死んだばあちゃんが立っていて『こっちに来てはいけないよ』って言っているに違いない」と確信するくらい一向に入らない点、見殺しにされるルーキー、かさんでいく借金、キャプテン筒香にのしかかる重責。そんなとき、ベイスターズファン永遠の元カレ、梶谷は帰ってきました。見違えるほど大きくなった身体で。

 こどもの日のハマスタで、ドンピシャなタイミングで三盗を決め、その後相手投手が牽制中に本盗まで。ものすごい高級な生ハムの原木のような太ももがホームベースに突っ込んできたとき、砂煙りとともに死んだばあちゃんは消え去りました。たとえば、梶谷がいるだけで、心が強くなれること。死んだばあちゃんが成仏した後の本塁には、はっきりとしたその事実がありました。

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