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連載歴史・時代小説の歩き方

安心してください、読み続けますよ!――杉本章子は面白いのだ

2015/12/19

genre : エンタメ, 読書

 何なんですかこれは。宇江佐さんの訃報からまだ1ヶ月も経たないうちに、今度は杉本章子さんて。以前からおふたりは親しくされていて、それがはからずも、ほぼ同じ時期に同じ病気にかかって、まるで待ち合わせでもしていたかのように続けざまにいってしまった。何なんですかこれは。

 杉本さんは余命宣告を受けてから、最後はホスピスで執筆を続けてらっしゃった。そして今年は中断しつつも書き上げた『起き姫 口入れ屋のおんな』(文藝春秋)を上梓し、10年にわたって続けてきた「お狂言師歌吉うきよ暦」シリーズも『カナリア恋唄』(講談社)が2016年1月に刊行予定だ。

 その強さと覚悟を思えば、湿っぽいのは似合わないよね? たぶん今頃あちらで宇江佐さんと「ごめーん、待った?」「ううん、今来たとこ!」なんて話してるだろうから、きっと寂しくはないはず。こっちも2回連続で追悼コラムを書くのは切なすぎるので、今回は「面白いんだよ杉本章子の時代小説は!」というテーマで真正面から書きます。

 杉本さんの出世作は、幕末から明治初期の木版浮世絵画家・小林清親を描いて1988年の直木賞を受賞した『東京新大橋雨中図』(文春文庫)。芸術系時代小説が人気の今年に、これが品切れってどういうことですか文春さん。10月に出た梶よう子『ヨイ豊』(講談社)も同じ時代の浮世絵師の話で、読み比べると面白いんだけどなあ。

 ただ、直木賞を受賞したとは言え、決して多作ではなかった杉本さん。恥ずかしながら私が「え、杉本章子、おもしろいじゃん!」と一気にのめり込むきっかけになったのは、2001年の『おすず 信太郎人情始末帖』(現・文春文庫)だった。それまで歴史物メインだった杉本さんが市井物、しかも捕物帳ってのにも驚いたっけ。

起き姫 口入れ屋のおんな

杉本 章子 (著)

文藝春秋
2015年1月10日 発売

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