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「私の映画の底にあるのは不安なんです」超話題作『パラサイト』ポン・ジュノ監督に町山智浩が迫る!

カンヌ映画祭パルムドール受賞作が描いたものとは?

2020/01/10

 世界レベルの面白い作品が次々生まれる韓国映画界でも、カンヌでパルム・ドールを受賞したポン・ジュノ監督の新作は大評判。早速インタビューを敢行!

カンヌで見せたガッツポーズ ©getty

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『パラサイト 半地下の家族』のプロモーションでハリウッドを訪れたポン・ジュノ監督にインタビューした。アメリカのパブリシストは「『殺人の追憶』については質問しないでください」と言って、部屋の隅でずっと見張っていた。

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 その数日前、ポン・ジュノ監督の映画『殺人の追憶』(2003年)で描かれた華城連続殺人事件の犯人が最初の事件から33年ぶりに特定されたのだ。既に逮捕された別の殺人事件の犯人のDNAと一致した。ポン・ジュノ監督はこの時点では公式なコメントを控えている。

 華城連続殺人事件は、1986年から91年にかけて、10人の女性が暴行され殺された事件で、映画『殺人の追憶』ではソン・ガンホ扮する地元刑事が捜査を担当するが、最後まで犯人は捕まらない。

『殺人の追憶』は全世界で評価され、アメリカのもうひとつの未解決連続殺人事件の映画化『ゾディアック』(2007年)にも大きな影響を与えた。

『殺人の追憶』 販売元:KADOKAWA

『殺人の追憶』は殺人事件そのものよりも、軍事政権下で育てられた警察の雑で強引な捜査こそがテーマになっている。現場を保存せず、被疑者を拷問し、自白を強要し、証拠をデッチあげる。簡単に解決できたかもしれない事件が、警察のミスによってどんどん迷宮に入り込んでいく。それが悪夢のように、またコメディのように描かれる。それがポン・ジュノ監督独特のタッチだ。

 これと次の巨大怪獣映画『グエムル 漢江の怪物』(06年)、『母なる証明』(09年)を海外でも成功させ、ポン・ジュノは、パク・チャヌクと並んで国際的に活躍する映画監督になった。

 アメリカ、フランスとの合作『スノーピアサー』(13年)も悪夢的だった。地球が雪と氷に閉ざされた未来、わずかに生き残った人類を乗せたスノーピアサーという列車が永久機関で世界を駆け巡っている。列車の内部では、前のほうの車両ほど豊かな者が暮らし、後部車両に行けば行くほど貧しくなる。最後列で奴隷のように扱われていたソン・ガンホたちは反乱を起こし、最前部を目指して、車両を進んでいく。

『スノーピアサー』 販売元:KADOKAWA

 その後、ポン・ジュノはアメリカの動画配信サイト、ネットフリックスのために米韓合作のモンスター映画『オクジャ』を撮った。

 2019年、カンヌ映画祭でパルム・ドールに輝いた『パラサイト 半地下の家族』は、この『スノーピアサー』の設定を、現在の韓国に置き換えたような映画だ。貧乏なキム家の長男が裕福なパク家の家庭教師に職を得たことをきっかけに、内部に少しずつ入り込んでいく。寄生虫のように。