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芥川賞候補となった『夏の裁断』を越えて、エンターテインメント小説に舵を切っていく「決意」――島本理生(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/10/24

genre : エンタメ, 読書

note

できるだけはやくデビューしたかった「シルエット」で群像新人文学賞を受賞した17歳の時

――今後エンターテインメント小説に舵を切っていくわけですけれど、そもそも島本さんは高校生の時に「シルエット」で純文学系の群像新人賞を受賞してデビューしたわけですよね。その頃は純文志向だったということでしょうか。まあ、小説の投稿はその前の『鳩よ!』に「ヨル」を応募したのが最初だと思うんですが……(どちらも『シルエット』収録/01年刊/のち講談社文庫)。

シルエット (講談社文庫)

島本 理生(著)

講談社
2004年11月16日 発売

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島本 小中学生の頃は、エンターテインメントの新人賞があることを知らなかったんです。たまたま実家にあった文芸誌がすべて純文誌だったので。個人的に憧れていた賞は、すごく好きだった吉本ばななさんの『TUGUMI』(中公文庫)が受賞した山本周五郎賞でした。つまりは新人の賞とプロになってから獲る賞の区別がついてなかったという(笑)。

 それで中3の時に、家にあった『鳩よ!』という雑誌を見て短篇の賞を毎月やっていて、しかも賞金が10万円だというのを見て、賞金に惹かれました(笑)。小学生の時から作家になりたくて自分でも小説を書いていたので、10枚だったら書けると思って応募しました。

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――応募した短篇「ヨル」が当選し、しかもそれが年間MVPも獲得したんですね。

島本 それで、当時の編集長の方に「新人賞はどこに送ればいいですか」と訊いたら、出身作家に女性も多くて柔らかいイメージが合っているから『すばる』はどうか、と言われました。だけど、その後で両親に訊いたら、「W村上が出た『群像』だ!」と力説されて。母が村上龍さんが好きだったんですよね。私も龍さんと春樹さんはどちらも面白く読んでいたので、じゃあ『群像』にしよう、と思って応募しました。

――最初からジャンルにとらわれずに書く人だなと思っていましたが、ジャンルを知らなかったからなんですね(笑)。「シルエット」で群像新人文学賞を受賞したのが17歳の時ですよね。17歳で受賞って、どんな気持ちなんだろう……。

島本 嬉しかったですね。できるだけはやくデビューしたかったんです。小説を書いているのが楽しくて、他のことをあまりやりたくなかったんですね。小説に付随することで映画を観たり出かけたり本を読んだり調べものをするのは好きだったんですが、小説に関係ないことでやりたいことが、基本的に全然なくて。

――その頃、どういう小説を書かれていたのですか。

島本 当時から青春小説や恋愛ものが好きでした。特に好んで読んでいたのは、吉本ばななさんと江國香織さんと山田詠美さん。その頃本格推理がすごく流行っていて、私は京極夏彦さんや有栖川有栖さんのファンだったので、ノベルスも読んでいたんですけど、自分には密室ものを考える才能がないので(笑)、ミステリーは書けないと諦めました。

――若くてデビューを果たした時は、その後の作家人生についてどういうことを考えていたのでしょう。

島本 10年先くらいまでは計画を立てました。それから一生の作家生活においての目標はベストセラーを5冊出すことでした。それを目指して頑張ろう、という。

――そのベストセラーというのは、何万部くらいを考えていたんだろう……(笑)。

島本 今から考えると、けっこうな部数かと。新人って恐ろしいですね(笑)。当時すごく好きだった作家さんをイメージした時に、すごく売れた本とコアなファンの人がついている本のバランスを考えたんです。一番素敵なのは、生涯でベストセラー5冊って、なんか思ったんですよね。たぶん、3冊だと切ない感じがして夢がないけれど、5冊くらいなら、死ぬまでには頑張れるかなという。

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